私の尊敬する犬養道子さんのエッセイに、物との付き合い方について書かれた文章がありました。犬養さん幼少の時代に、お母様から”必要なものはすぐに買う””欲しいものは熟慮の上買う”ように指導を受けた、という内容でした。仕事などで必要なものと、趣味や贅沢で買うものはもともと位置づけが違う、という考え方です。それまで、必要なものも欲しいものも、きちんと分けて考えたことが無かったので、この文章は強く印象に残っています。
そこで私は考えました。”エルメスのバッグ・・”仕事を始めた頃、これは私にはとてもつとまらない、と感じており、エルメスのケリーバッグを1個買えたら仕事を辞めたいと思っていたのです。(とっても真剣)でも、仕事を始めて間もない頃は、スーツや書類かばん、出張用のスーツケースなど”必要なもの”の買い物が目白押し。で、貯金を始めることにしたのです。
といっても、これは本当にのんびりしたもので、古本を売った、使わないブランド品をちょこっと売った、から始まり、徐々に増えてきた講演や執筆の依頼、などのまさに”予定外の収入”を少しずつ貯めてきました。でもその間に、”必要なもの”である本、スーツ、それから稽古事などにはかなり思い切って使ってきたと思います。
貯金を始めて5年ほどたって、ようやく必要な金額が貯まり、渋谷西武のエルメスでマロン色のケリーをオーダーしました。その後も数年おきに、貯まった時点で購入する・オーダーする、を繰り返して、数も少しずつ増えました。最近では、物になるだけでなく、秘境やおこもりリゾートのやや高額な旅の費用にあてることもあります。
この貯金の効用はどこにあるかというと、最後の一歩で妥協しなくなることです。結構時間がかかるので、”ここまで待ったんだから妥協したくない”"時間が経ってみると実はそれほど欲しくなかった”と好みもかなりはっきりしてきます。こうやった貯めた”エルメス貯金”で、ヨーロッパを旅したり、スパリゾートに長逗留したり、と少しずつ世界を広げることができました。”妥協するぐらいなら待つ”というこの買い方・使い方のスタイル、長年で得たものはたくさんあります。