ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の先輩である鈴木貴博さんの最新刊「仕事消滅」を読みました。
鈴木さんのアプローチは、データとロジックに忠実であるため、エボリューションやダイナミクスといった大きな流れや変革をロジカルに説明することに抜きんでています。ここに書かれている事は、ややロングスパンで見ているという印象を受けましたが、技術のベースがすでに出来上がっていることを思うと、海外で先進事例が出てくれば、一気に進む可能性も否定できません。
この大きな流れの中で、日本がどうなるのか、多くの国民の生活がどうなるのか、”見えている”人ならではの危機感で上梓された本であることを強く感じました。愛ある警告の書として、多くの方に手に取っていただきたいと思います。(特に霞が関系の方々)
どう規制していくのか、どう活用するのか、ルール作りはこれからなのでしょうが、私自身は、日本にとっては一定期間大きなチャンスが広がっているように思いました。それは、高齢化・過疎化の中で労働力が不足することと、地方における移動手段の問題が深刻であることが理由にあります。
働き手もしくは希望者がいる分野の仕事をロボットが代替すると、深刻な軋轢になるでしょうが、そもそも”手が無い”分野であれば、その事により解決できる課題とそれに伴う経済的メリットが多く出現します。日本においては、大きな経済的損失になる分野と大きな経済的可能性がある分野の両方が存在します。
大きな経済的損失になる分野は、医療・介護です。すでに介護職や施設の不足は顕在化していますが、予備軍は地方の衰退により病院に行けない、デイサービスに行けない、食品の買い物にすら行けない、といった地域がそれを加速させる可能性があることです。居住地選択の自由があることで、山間部まで住民が点在している地域においては、自動運転による二次交通の改善は、まず医療費や公共交通の面で大きなメリットを発揮すると考えられます。この分野は、介護を支えるロボットのニーズだけでなく、そもそも、”人を孤独にしない”交流のための移動手段の出現が、健康寿命を延ばす可能性があるのです。
大きな経済的可能性がある分野は、地方のツーリズムです。インバウンドが地方に広がりを見せていると言っても、まだアクセスの利便性が高いエリアに限定されています。日本には秘湯、秘境系の素晴らしい場所がありますし、それは海外のゲストに高い価格で販売できると思いますが、常にアクセスの問題を抱えます。海外の秘境系リゾートに行くと、片道数百ドルはチャージされます。が、日本ではそこまで勇気のあるリゾートはあまりありません。日本の財産とも言うべき、温泉旅館は、少ない客室数、少ない人員で運営をしていることが多く、送迎に割ける車も人も限界があります。いやもっと高くチャージすべきだ、とツーリズムの評論家は口にしますが、運営側から見ると、客離れが怖くてなかなか手をつけられないのが実情です。
いずれ大きなうねりが来れば、構造ががらりと変わるかもしれませんが、少なくとも向こう10年程度は、こういった非都市部の二次交通の改善には、大きなメリットがあります。不安を持たれる革新は、誰もが歓迎する領域から導入してはどうでしょうか?
AIの時代に入り、贅沢品が残れば、1%の富裕層、49%の中間層、50%の貧困層で構成されるという仮説は、かなり現実的な気がします。これは既に起きていますし。問題は、経済指標から見れば貧困層にあたる層が、いかに貧困を意識せずに、衣食住を満たし一定の精神的な充足を達成するか、という点にあるように思います。
社会環境からすれば、日本はAIやIoTで先行者メリットが得られる条件は整っています。が、それを活かせるかどうかは舵取り次第。ここが一番の不安要素です。