With コロナの経済活動再開に向けて、様々な感染症対策が進んでいます。こういう時にはワイドショーネタではなく、きちんとした専門家の知見が必要です。(8割おじさんみたいな人じゃなくて)
広がり方と防ぎ方について、わかりやすく書かれている本がこれ
抗菌学や感染症の本は、大人気で在庫切れだったり、名著は絶版になっていたりして、手に入りにくくなっています。この本も、キンドルで読みました。
新型コロナについては、いまだに、何故日本での死者数が少ないのか、世界中の謎になっています。検疫や入国規制は不十分で、ロックダウンもゆるゆる、PCR検査数も少ない、医療備品の準備も不十分、とダメダメ尽くしと言われる日本ですが、なぜか結果オーライ。でも、”なぜ?”が解明されていないので、自粛要請を解除してよいのか、どの業種の休業を続けるべきなのか、まるで根拠がなく、オロオロしている状況です。専門家会議の利権問題まで出てきて、どこに向かうのか?という情けない状況。
とはいえ、日本の感染症対策が、世界でもトップクラスであることは、明らかな事実です。北里柴三郎の偉大な功績は、日本より海外の方が有名ですが、この本を読むと、それよりも更にさかのぼった、江戸時代からの蓄積であることがわかります。基本的には、上水道と下水道(汚物)のルートをいかに分けるかが、ポイントだったようです。(ある意味、今の東京がそれに逆行しているのは情けない印象を受けますが)
スパに関わる立場から、この本に書かれていることを考えてみます。20年ほど前、初めて日本でスパを作り始めたとき、海外のスパコンサルタントたちと仕事をする機会を重ねました。まず、設計段階で必ず直面するのが、”靴を脱ぐ”動線です。海外では、靴を脱ぐ習慣が無いので、すべてのエリアは土足を前提に設計します。しかしながら、日本においては、リラックスする際に靴を履いていることはほぼ無いため、どこかで靴からスリッパに履き替えるエリアを設ける必要があります。日本人が設計すれば自然にこの動線が出来るのですが、海外のデザイナーが設計した施設をそのまま渡されると、オペレーションで”靴を脱ぐ”フローを追加で作らなければなりません。
加えて、温浴やシャワーについての認識にもギャップがあります。日本ほど、水に恵まれた国はありません。口に入れても問題無い質の水を、お風呂に使い、朝シャンをする家庭では、一日に2回使用する、しかも安価に。加えて、ウォッシュレット。海外セレブが来日して、”欲しい~”と絶賛するこの設備。海外での導入には高いハードルがあります。それは、使用する水が上水道である必要があるためです。お尻を洗うために、飲めるレベルの水を使う、これも水に恵まれない国にとっては、あり得ないような使用方法です。
家に入る際に、靴を脱ぎ、毎日お風呂に入る。そして、食事の前には必ず手を洗い、箸を使う。料理屋でも、コンビニでも、必ず抗菌作用があるおしぼりが提供される、そんな国はありません。スパコンサルタントたちが来日すると、まずおしぼりの習慣に狂喜乱舞します。OSHIBORIと海外のホテルやスパでもここ10年で導入するところが増えました。5つ星ホテルでは、昔なかった使い捨てスリッパ導入ホテルが増えています。
今、テレビを見ていると、様々な対策法が報じられていますが、ウィルスの性質を理解しない報道も目立ちます。スパやエステでも、プロとしての知見が感じられない対策をする施設や団体もあり、大きな疑問を持ちます。
例えば、温浴と換気に対する対応です。コロナウィルスの感染が広がりつつあった初期、某外資系ホテルのスパが、温浴利用を停止しました。トリートメントは普通に提供していたようです。洗い流さずに、そのままケアを受ける、ゲストにとってもセラピストにとってもリスクが上がります。この頃では、”まず帰宅したらお風呂”と報じられるようになってきましたが、このスパは、大きな誤解を広げてしまいました。
そして、換気。ウィルスの場合、飛沫対策がとても重要になります。まず飛び散らせない、散ってしまったら外に出す、ということになりあますが、飛沫は砕くほどに対処しにくくなります。洋服を着て、靴を履き、不特定多数の人が集う場所での換気はとても重要です。
しかしながら、靴を脱ぎ、服も着替え、ふき取りを重ねた場所でのリスクは大幅に低減されます。この環境で、換気をし、ウィルスが飛び交っている状態の外気を入れるということは、むしろ状況を悪化させることになります。空間においても、グリーンゾーンとレッドゾーンは存在し、清掃を重ねて、衣服のコントロールをしている空間は、グリーンゾーンなのです。
この本の著者は、「喋り風圧」という大変ユニークなアプローチをしています。英語と日本の発音構成要素の違い(たとえばP温)の有無で、風圧が数倍異なってくる、という研究です。日本語の静かな語り方は、そもそも飛沫感染のリスクを下げる効果がある、という考え方です。
スパにおいて、大きな声でしゃべり続ける人はいません。静寂に満ちた空間と雰囲気を楽しみに来られます。靴を履き替え、服を着替え、静かにカウンセリングシートに記入し、そしてうつ伏せでトリートメントがスタートし、あおむけになる段階では、すでに眠りに落ち、かつ、抗菌作用や抗ウィルス作用がある植物の精油を使用する、というプロセスは、まさに理想的な条件です。
本来は、対応するだけの知識を得ているはずのセラピストですが、不安を重ね仕事を辞める方もおられると聞きます。衛生管理がしにくい街中のマッサージ店ならば仕方がない点もありますが、十分な施設と対応をしているホテルスパであれば、リスクはほとんどありません。体温測定や問診票記入等で、ゲストにご協力いただくことで、変わりなくトリートメントを提供することはできるはずで、世の中全体が不安感を抱える今だからこそ、きちんと学びを重ねたセラピストの知識と安心感が求められていると思います。
とはいえ、専門学校の先生とお話していても、ビックリするようなこともしばしばあり・・。これを機に、また選別が進むのかもれません。