「マイセン磁器の300年」という展覧会に行ってきました。六本木ミッドタウン内のサントリー美術館で1月8日から開催されています。
マイセンと言えばドイツの名品で、ヨーロッパのブランド食器として百貨店などで購入できますが、ヘレンドと並び、頭一つ抜けている価格帯のものです。洋食器が好きな方であれば、コレクションされている方も多いのではないでしょうか。
絵画も含め、展覧会に足を運ぶ理由は、日ごろなかなか知ることのない、”なぜその作品が誕生したのか”という背景を知ることができるからです。展示されてい作品の美しさにうっとりすることはもちろんですが、説明のボードを一つ一つ読みたいので、できるだけ空いている朝の時間帯に行くようにしています。
マイセンの歴史はとても興味深いものでした。ヨーロッパの磁器が、東洋の影響を受けていることはよく知られていますが、その影響の強さは想像以上でした。マイセンは、強い権力とリーダーシップを持った国王によって創設されたこと、この王様は国家財政破たん寸前まで、柿右衛門や景徳鎮を集め続けていたこと、それは道楽ではなく、フランス王室に代表されるような国家の威信を象徴するものであったこと、などが説明されています。
何としても自国で作りたい、自国の産業にしたい、との強い意志で、錬金術師を幽閉し、粘土の調合を研究させ、その後量産体制に入った後は、交通の要所に瀟洒な城を建て、恵まれた環境のなか、芸術作品として、マイセン磁器を作らせていたといいます。
この頃のヨーロッパの食器は粗い陶器か金属製のものしかなく、繊細な味付けのもの、特に上流階級が好んだお茶やコーヒーといった嗜好品の味を損なうことが大問題で、その繊細な味を楽しめる磁器という高度な技術で焼かれる食器を作る文化を持った東洋に憧れを持っていた時代でした。
展覧会でも、柿右衛門とそのコピーを目指したマイセン磁器が並べられていて、不思議な気持ちになりました。今、輸入食器は国産のものよりはるかに高級であるとの扱いを受け、贈答などの大切な機会には、ロイヤルコペンハーゲンやマイセンなどが選ばれます。確かに、洋食の文化は西洋の方が豊かですから当然といえば当然ですが、例えばお茶を飲む、という行為は、緑茶・紅茶を問わず、そのオリジンは東洋にあります。(中国ですが)
繊細なお茶、繊細な食器を楽しむ文化を持ち、作る技術も文化も持ちながら、様々な歴史の敬意の中でそのオリジンを失ってしまった日本・中国。東洋への憧れを自分のものにし、300年続く産業とブランドを作り上げたマイセン。この歴史の中に多くの学びがあるような気がします。