今回でオーストラリアに行くのは5回目です。これまでは、ほとんど仕事だったので、今回の訪問で、ようやく色んなガイドツアーに参加することができました。その一つがオペラハウス。
オーストラリアと言えば、必ず出てくるのがこの建物とエアーズロック。オーストラリアのアイコン的存在です。中国とか中東で、高層建築は色々出てきますけど、ここまで個性的な建物はいまだ出現せず。海と空と橋を織りなす景色は唯一無二。
改めて見てみると、いかにも造るのが難しそうな建物です・・。という第一印象を裏切らないガイドツアーの説明でした。もともと港湾だったこの岬の活用方法について、国を挙げての議論がなされ、劇場を作ることが決まり、デザイン案を公募した折、最後の最後、どんでん返しで決まったのが、この帆のような形状を取り入れた案。が、簡単なスケッチしかなかっったため、なんと設計図無しにスタートしたそうです。(ひえ~っ) 手さぐりで作り続け、工期も予算も大幅アップ、そしてようやく完成したときには、原案を作ったデザイナーとの仲も険悪になり、絶縁状態でのオープニングだったとか。
そこまでいけば、非難の的になりそうですが、ガイドさんの説明では、”それでも国民は造る価値があったと思っている”とのことでした。もともと英国の流刑地として始まったこの国の、新たなアイデンティティとしての誇りと、その後につながる協力な観光資源として、十分に元が取れているとの理解なのだそうです。
大幅に予算アップした資金を、どうやって調達したのか?と質問してみたところ、何と全額”宝くじ”で調達したそうです。それだけ国民の興味関心を惹き、賛同されたプロジェクトだったということなのでしょうか。
無茶苦茶な建築スタートだったと説明を受けましたが、そうはいっても、とても良く運用が考えられた建物です。たとえば、屋根。見るからに掃除が大変そう・・と思う形状ですが、なんとまだお掃除したことがないそうです。その秘密は素材にあります。全てこのために特別に焼いたタイルが貼ってあります。白とベージュで構成されているのは、真っ白だと光が反射しすぎるためとのことでした。雨が降れば汚れがながされて綺麗になる仕組みで、これは大成功だったとの説明でした。
中には大小とりまぜ、多くのホールがあり、オペラから演歌まで様々な演目に対応できるようになっています。海が見える絶景のホワイエは、結婚式やパーティによく使われているとのこと。ホールの中にもその周辺にも、多くの飲食施設があり、このオペラハウスがあることで、広域にわたり恩恵を受けているという印象でした。
外観で観光のシンボルとなり集客をし、内部の設備や企画力、観客動線を考えた周辺の開発と連携して、単体でも稼ぐ仕組みがあり、メンテナンスも考えられている、と本当に良くできています。ちなみに、このガイドツアーは一人当たり20ドルぐらいかかりますが、複数言語で対応しており、これも大賑わいでした。幾重にも稼いでくれる、まさに”金のなる木”
このガイドツアーに参加しつつ、今議論されている新国立競技場のことを考えていました。ザハの建築は確かに未来的で、デザイン単体では面白いかもしれません。(ニューヨークのグッゲンハイムで彼女のデザイン案を見たことがありますが、スケッチとしては本当に面白いと思いました)でも、今これが東京に必要か?あの周辺にマッチするか?といえば、それはどうなんでしょう。すでに街の顔が出来上がっている場所に、目立ちすぎる建造物を大きな費用をかけて造るというのは、かなり無理がありますし、構造的なチャレンジに費用をかけても、リターンを期待できそうにもありません。
アイコンを作るべき時期や環境と、すでにある機能をアップデートさせて溶け込む施設を作るべき状況は、大きく異なることを実感した、今回のツアー。何とか方向が変わって、神宮の森に溶け込むエコな競技場になりますように、との思いを強くした次第です。