コンサルティング会社で8年仕事をした後、実務経験を積みたいと思って、日本コカ・コーラに転職しました。4年間の勤務のうち、1年目がお茶のブランドマネジャーとして、爽健美茶などを立ち上げ、商品開発~プロモーションのいろはを学びました。そして、2年目はコーヒーチームでジョージアを担当し、ジャンバーなどが当たるプロモーションを担当しました。ギネスにも申請したほどの応募があった、超ビッグプロモーションでした。そして3年目、コカ・コーラ担当になり、長野オリンピックやワールドカップフランス大会のプロジェクトにも加わりました。そして、4年目、マーケティングコミュニケーション部の統括マネジャーになり、全社のコミュニケーションリソースの改善プロジェクトをリードすることになりました。
ハードワークだけど、日々ワクワクだったコカ・コーラ勤務時代、色んな機会に恵まれましたが、元コンサルタントとして最も面白かったのは、この4年目の仕事でした。
私が渡された仕事は、”ブランドコークのローカルアクティベーションの質を上げる”ということでした。横文字だらけで却ってわかりにくいですね。要は、コカ・コーラが置かれている場所全て、世界展開しているブランドの世界観を保て!という気の遠くなるようなお題です。
数十年にわたって、誰も手が付けられなかったことをしろ!というのがこのお仕事の具体的な内容でした。海外のデザイン事務所が来日し、グラフィックの意図と使用方法の説明を受ける一方で、日本のサプライヤー数百社と会って、業務の質と制作物を確認する日々、毎日疲労困憊でした。
実は、この仕事の話があったとき、私が感じたのは、”本社の手先~?”という超ネガティブなものでした。現場には現場の考えがあるし、売れているなら、今の販促物でもいいじゃない、皆熱心に作っているし、と思ったのです。でも、膨大な数の現場作成の販促物を見ているうちに、”やっぱりこれは手を入れないとダメだ”という考えに変わり、デザイナーと数日間にわたり、かなり真剣なミーティングを行いました。
当時まだ、日本の広告・マーケティングの世界では耳にしなかった、”Experience" "touch point"という言葉が頻繁に出てきました。消費者との接点全てが、ブランド構築の機会になる、という考え方です。平面の絵ももちろん、POPの材質、屋外看板なら、その色や材質も、その全てがブランド、という考え方です。
この考え方に沿って、製品を入れる段ボール(shipping cartonと言います)から、ルートセールスの制服に至るまで、全て統一感のあるデザインがなされます。デザイン会社へのブリーフィングの際、デザインアイテムリストには、まさに、全てのtouch pointが含まれています。こういったブリーフィングの仕方についても、本社でトレーニングを受けましたが、これは私自身にとって、とても大きな財産になりました。
そして、久しぶりに、この言葉を聞きました。今回はstandardという表現になっていましたけれど、某外資系ホテルの運営スタンダードの内容です。制作物のみならず、備品やゲストからの問い合わせ対応に至るまで、細かく規定されています。スパ運営会社として、当社もその規定に従う必要があります。
必要がある、というと、ややネガティブに聞こえるかもしれませんが、それぞれに良く考えられています。こうやってグローバルルールを決めて、徹底的に遵守することが、ホテルというサービス業の中身を確立させるのだと思います。
残念ながら、同様のガイドラインを設けている日本のメーカーも、ホテル会社も、私は見たことがありません。こんなところに手間暇かけるな、外部に頼むなんてもったいない、かくして、日本のメーカーはデザイン力で負け、日系のホテルの客室には、手作り+プリンターで作られた、A4の紙の山が溢れることになります。
コカ・コーラの場合、presence guidelineを作るのに、何年もかけ、多くのデザイン会社のコンペと選定を繰り返していました。その背景には、事業戦略の緻密な計算があります。ガイドラインは、単なる窮屈なルールではなく、戦略をデザインで”見える化”して、ゲストに伝えるプロセスそのものだと思うのです。
これが理解されない日本企業、実は戦略そのものが無いのでは?と不安に思うこともしばしばです。