本の中にも、”背伸びして入った会社”として登場するボストンコンサルティンググループ(BCG)。この会社での日々が、その後に続く仕事のベースとなりました。
私が入社した1987年当時、日本ではまだコンサルティングが確立されているとは言い難く、マッキンゼーでは大前研一さんが、BCGでは堀紘一さんが、会社の顔として登場し始めていました。今や、コンサルティングが大学生の就職人気ランキングに入る時代となり、人気の職種になってきましたが、この当時、”家族の反対を押し切って”入社するのが当たり前という状況でした。私の同期は5名いますが、うち4名の男性は全員大学院を含む東大卒。ご両親に強烈に反対されたとか、親戚の方にカバン屋に就職するのか、と言われたとか、研究室の教授に呆れらたりという荒波(?)を乗り越えての仕事始めでした。中途の方はもっと大変だったようです。
採用も大変なら、営業も大変でした。まだコンサルティングが定着していないということは、仕事が無い、ということです。会社としてもスタッフリストに堂々と書ける肩書を持たないスタッフを抱えることはお荷物かつリスクだったのだと思います。しかも、私が入社する直前に、中堅どころがごっそり辞めて独立していました。夏にインターンに行ったときには賑やかだった事務所が、翌年の春にはがらーんとしていました。堀さんクラスの大御所がいて、私たちのような学卒コンサルがいる、という異常事態だったのです。今思うと、幹部の方の心労は尋常ではなかったことでしょう。
そんな大混乱の中でも、会社の方針は明確でした。”Client first, quality first"と告げられました。顧客第一主義、安売りはしない、というものでした。うちは戦略コンサルティングだから、市場調査の仕事は受けない、と良く堀さんから聞かされました。日銭を稼げという意見もあるけど、それではコンサルは育たない、お前たち、腕を磨けよ、と会う度に言われました。そう言われても、未経験者に何かできるはずも無いのですが、”顧客第一なんだ!頑張ろう”と訳もなく前向きな気持ちになったのを覚えています(体育会系?)
BCGでの8年間、私は2つの”正しさ”を学んだと思っています。一つは、顧客に対する正しさ。BCGの仕事は顧客の正しい成功に対して真摯です。堂々と成功するために戦略をともに作り支援します。大きな成果、成功を遂げた顧客は多く、以前担当したクライアントの成功は、今でも私の誇りです。BCGを卒業し、世の中にはいろんな”大企業”があることを知りました。が、会社の志やエンドユーザーに対する誠実さが無い会社は、いつか傾くという現実もまた目にしました。長期的に見れば、顧客に求められない商品やサービスは存続できない、一次の成功に胡坐をかかず、新たな価値を作り続ける必要があることを、実感しました。
そしてもう一つの正しさは、組織の正しさです。私は本当にパフォーマンスが悪く、プロジェクトが終わるたびのフィードバックや、昇進を議論される時期は、本当に憂鬱でした。それでも、評価の内容には納得していました。膨大な時間をかけて、若手を含む一人一人を見ていたと思います。コンサルティング本業の成果が上がっていなかった時期、朝礼で名前を呼ばれました。何かしたのだろうか、叱られるのか、とビクビクしていたところ、それは何と”金一封”でした。就業環境が良くなるように美化を推進したこと、新しく加わったスタッフのケアをしたこと、私的に英会話学校に通っていたことを、評価されてのことでした。こっそりやっていたつもりだったので、まさか見ている人がいるとは思いませんでした。”本業をもっと頑張ってほしいけど、チーム全体に貢献していることは素晴らしい”とのコメント付きでした。入社して初めて、拍手してもらいました。
BCGでのスタートがあってこそ、その後に続くリゾートの再生や今の会社があります。多くの企業や経営者に触れる機会をいただき、そしてBCG自体もベンチャー期や世代交代の危機を乗り切り、成長を続ける様を傍で見てきました。2013年のアルムナイパーティは、BCG50周年のお祝いも兼ねていました。在籍していた30周年のとき、”BCGは企業のCEOを輩出する組織になる”というスピーチがありました。あまり実感を持てなかったこのスピーチ、20年を経て現実となりました。
今では、企業だけでなく、公的な機関で活躍される方、NPOで活躍される方もおられ、様々な分野でリーダーシップを取る集団になっています。志とそれを実現する粘り強さを教えてくれる”実家”です。