コロナウィルスの報道を見ていると、医療崩壊、治療薬、ワクチンのことが出てきます。収束すると言われたり、長引くと言われたり、長い闘いだ、と言われたり、識者によっても発言は様々。一方で、政府は、GW明けにも収束して、そこからは旅行キャンペーンだ!と超楽観的なことを経済対策として語ったりします。
そもそも、感染症とはどんなものなのか?良い機会なので、調べてみました。
ペストは、中世ヨーロッパの大流行が有名ですが、実は、ギリシャ時代~ローマ時代から続く疫病です。東ローマ帝国の全人口の40%が死んだ、などの記録が残っています。そして、14世紀のパンデミック、黒死病とも言われるペスト(これが一番有名)。アジアで発生し、シルクロードを経由してヨーロッパに伝播。1348年から1420年の間に、人口の30~60%が死亡したと推定されています。実は、それで終わったわけではなく、10万人程度が死亡する規模の流行が、世界各地で繰り返されており、2004-2015年の間、世界で56,734名が感染、死亡者数は、4,651名と報告されています。
そんな恐ろしい病、収束させたのは、ご存じ、北里柴三郎です。19世紀末に原因菌を突き止め、治療法を隔離しました。
ペストと一口に言っても、肺ペスト、腺ペスト、皮膚ペスト、眼ペストと種類があり、それぞれ異なる菌の株があります。それに効果的な抗生物質を投与して治療を行います。有効なワクチンは存在しない、と書かれています(これには驚き!)そして、予防策は、ペスト菌を保有するノミや、ノミの宿主となるネズミの駆除、そして患者の隔離です。医療従事者は、患者の2メートル以内に接近する場合、マスク、眼用防護服、ガウン、手袋の着用が必要とのガイドラインがあります。
さて、日本での流行ですが、明治以前の発生は確認されていません。14世紀、そもそも日本は発生している国々との行き来が無く、中世のパンデミックの後、欧州で小さな流行が発生していた17世紀~18世紀は、鎖国状態でした。発生事例は、開国後の明治時代から始まります。輸入した毛皮についていたノミ、大流行中のインドから輸入した綿花に入っていたネズミが発生源となりました。感染例2,905名、死亡例2,420名(すごい致死率です)、1927年(昭和2年)以降の国内感染例はないそうです。
ヨーロッパでペストが感染する際にも、自給自足をしていて、あまり周囲と交流が無かった地域では、ほとんど感染者が出ていません。日本も、鎖国状態には感染が無かった、という事実を考えると、感染症の特効薬は”人の行き来を止めること”だと言えます。あとは、地道だけど効果的な衛生管理でしょう。
コロナが報道されるようになって、メディアの報道に違和感を感じることがいくつかあります(いや、たくさんあります)。それは、科学的根拠がなく、短絡的で感情的な報道が多い、ということです。
専門家と、言葉がかみ合っていない、という事も良く感じます。
感染症を専門にする人からすると、感染症の完全な収束は難しく、いくつも山を乗り越える必要がある、というのは当たり前のことです。ペストなどは、人類の歴史が始まってからずっと存在しているわけで、中世のパンデミックだけでなく、今のコロナ並みの山は、近代にかけてもいくつもあります。かつ、治療法はあるけど、抗体はない、という事実も、周知のことです。でも、一般市民には、そんな知識はありません。一気にゼロまでなくなることを期待し、対処を怠ると発症事例があることを、極度に怖がってしまう。かつ、感染症の基本理念である、広げないことと、原因を封じ込めることが、単純だけど重要であることがわかってない。
ペストの対応策が、ノミとネズミの駆除であったように、コロナの対応策は、まず石鹸での手洗いとうがいです。それはコロナウィルスの性質上、石鹸とアルコールに弱いことは明確にわかっているためです。専門家の話が出て、ああ、もっともだなあ、と聞いていましたが、ワイドショーに出ている”識者”は、えっそれだけですか?とバカにしたような発言が続き、専門家の方は困ってな表情をしていました。なぜ隔離が必要なのか、なぜ、交流を減らす必要があるのか、についても同様の印象を受けます。専門家は”常識”をうまく伝えられない、ワイドショーに出てくるレベルの芸能人や識者には、それを理解する知性と努力が足りない、かくして、不安だけが増幅される、という構造になっているように見えます。
ペストの歴史の中で、重要な学びは、”鎖国”という点です。ペストの場合、ヒトー ヒト感染原因は、体液などに触れることによる感染と、飛沫感染とされています。この状態でも、隔離は最重要の対応策です。 一方で、新型コロナの場合、エアロゾル感染が感染初期(無症状)でも起こりうる、との報告がなされていますので、グリーンゾーン化した後、鎖国的な状態を作ることが、再発防止にもっとも有効な施策になります。
日本における今の感染拡大は、第2波を止めなかったことが要因です。今後、医療従事者の献身的な努力と、国民の自粛努力で、一定レベルまで収まったとしても、この教訓は生かされなくてはなりません。
今、国の施策に、”感情論”はあっても、"科学”や”論理”が無いことがとても気になります。入国を断ると悪い感情を持たれそう、反感を買うのが怖い、といった考え方ではなく、感染症対策で入れない、一定期間隔離する、というのは科学的に必要なことです。その意味で、中国や韓国のやり方の方が、よほど理にかなっています。
経済活動を再開させる際も、当面は、”プチ鎖国”を続ける必要があるでしょう。国内生産で生活に必要な物資を製造し、国内需要で、観光や食を立て直し、ヒトとお金の流れを活性化させる必要があります。検疫の大強化がなされれば、海外との人の流れを再開できるでしょうが、何千万人もの人を以前のように受け入れるまでには、数年かかると思われます。そう考えると、来年の東京オリンピック開催は難しいと考える方が妥当でしょう。
ペストは、今でも続いている。治療薬はあるけれどワクチンはない。今でもノミやネズミの駆除努力が続いている。この事実を理解して、今回のコロナ収束後を考える必要があります。
幸か不幸か、今の日本は、グローバライゼーションの波に乗り遅れ、輸出産業はぱっとしません。一方で、国民の財布を合わせれば、十分な内部留保があり、国内消費のレベルを上げていけば、内需でしばらくはやっていけます。インバウンド観光!とのろしを上げていた観光業も、いまだに8割の売り上げは、日本人によるものです。
正しく知り、正しく対処する、という当たり前のことができれば、光は見えているように思います。