新型コロナの感染が一定の収束をみて、経済立て直しが話題にのぼるようになりました。
ここ数年、国がインバウンドを成長戦略に据えていたこともあり、インバウンドが期待できない=ホテル・旅館がバタバタと潰れて大変、といった報道が目立ち、唖然としています。報道に携わるのであれば、せめて観光白書ぐらいは見ておいて欲しいです。
実は、観光関連の正確な把握は意外と難しいのです。なぜかと言えば、移動する際、100%観光!という場合もあれば、仕事のついでに週末を使って名所旧跡に行った、ホテルに延泊して著名シェフのお料理を食べた、スパに行った、というパターンがありますよね?大多数の地方自治体にとって、その地方に来た理由が”親戚・友人知人を訪問”という項目がたいていトップに上がったりします。なかなか100%正確に”観光”のみ切り分けるのは、結構ハードルが高いのです。なので、観光関連の数字は、一定の前提をおいて、かつ、売上とかアンケートなど、複数のデータソースを組み合わせて、かつ時系列で不連続にならないように数字が集計されています。
国内旅行市場規模は、26.4兆円。そのうちインバウンドは4.5兆円で17%です。たった17%。ということは、83%にあたる21.9兆円が日本人による消費で、その規模そのものも、対前年7%と成長率も高いのです。うち、宿泊を伴うものが17.1兆円、日帰りが4.7兆円です。日帰りはほぼ横ばいですが、宿泊を伴う旅行は8%程度伸びています。
日本は、長年、アウトバウンド>インバウンドの市場で、それが人数ベースで逆転したのは、2014年のことです。ず~っと長いこと、インバウンド人口は500万人ぐらいで推移していて、1,000万人を超えるのはあり得ないと思われていました。それが今や3,000万人。ちなみに、アウンとバウンド人口は2,000万人でず~っと変わらず。
インバウンドが伸びたと伸びたと大騒ぎしていましたが、実は、この数字、かなりの部分を超低価格のパッケージツアー客が占めています。そのため、京都あたりでは、オーバーツーリズムになり、駅には人が溢れ、バスには市民が乗れないなど、大問題になっていました。かつ、来るゲストはバックパッカーのようなチープな旅行をする人たちが大多数。
インバウンド消費が4.5兆円とされていますが、そのうち半分は”買い物”です。つまり、安く来て、安く泊まって、爆買いして、という旅行パターンの人が大挙してやってきていた、というのがここ数年の実情だったわけです。しかも、無茶苦茶東京や大阪に集中していました。つまり、”インバウンドの影響で倒産して大変です!”とワイドショーに出てくる会社は、こういう旅行者を泊める宿、移動させるバス、といったかなり限定的な部分だったわけです。
もちろん、日本人以上に日本を知り、ゆっくり地方を周遊するような外国人旅行者もいます。ただ、数字的に見れば、それはまだまだ限られたゲストだったのです。
つまり、日本の旅行市場を活性化できるかどうかは、わたしたち日本人にかかっている、という事です。
今、日本の観光資源は、これまでになく充実しています。日本人は”おもてなし”が大好きなので、オリンピックで来てくれるであろう海外からのゲストのために、色んな工夫をして準備していました。ホテルブランドも続々、旅館の改修も進み、インフラの充実度も素晴らしいです。おまけに、ミシュランの評価も導入して、都市部だけではなく、広島・愛媛、福岡などでも、ミシュランの星を獲得するお店が続々と誕生しています。フランス本国と違って、フレンチ、イタリアン、エスニック、和食、中華と本当にジャンルも様々。
こんな国が他にあるでしょうか!?いえ、ありません。
インバウンド需要、当面いりません。この充実した環境を、日本人でゆっくりじっくりぜひ楽しみましょう!ちょっぴり贅沢して。
ちなみに、日本人が海外旅行をするアウトバウンド市場規模は2.2兆円。当然しばらくは海外に行けません。ハワイに行きたかった、タイに行きたかった、フランスに行きたかった、いろんな気持ちがあるでしょう。でも、そのお金を、”行ったつもり”で国内ちこちで使って欲しい。
ハレクラニだって沖縄にあります。スイスの山岳グランピングは白馬でできます。瀬戸内では、GANTUがあるので、地中海クルーズ並みの体験もできます。京都には3軒目のアマンリゾートが出来ました。
さて、今朝観た番組で、星野リゾートの星野社長が、興味深いことをおっしゃっていました。長いこと、日本の観光は、日本人向けに”外国”を見せてきた。近年、インバウンドを意識して日本らしさをアピールしてきたけれど、今年は頭を切り替えて、外国っぽさを見せることも必要かも。これは日本観光業界のお家芸。もともと得意な技を発揮してはどうか?との提案です。
星野さんは”マイクロツーリズム”という言葉を使っておられますが、私が提唱したいのは、”プチ鎖国”。
鎖国をしていた江戸時代、日本には感染症が入ってきませんでした。中世にヨーロッパで猛威を振るったペストの影響もなし。日本の感染症は、明治時代になってから、ペストがやってきて、次にスペイン風邪がやってきて、と次々に影響を受けます。
日本独自の文化が花開き、そして感染症とも無縁だった鎖国時代。ここはひとつ、割り切って”プチ鎖国”を堪能してはどうか?と思うのです。今の日本には、それだけのコンテンツと資金があります。