東洋大学の国際観光学部の学生さんに向けて、オンライン講義を行いました。
私は、日常的に講演や教育をしているわけではないので、外部から講演を依頼されるときには、すべて一から手作り。時間も手間もかかりますが、その分こちらも勉強になります。
東洋大学では、日系企業、外資系企業問わず、多くのホテルの幹部の方が講演なさっているようです。近年続くホテルの開業ラッシュを受けて、東京のもてなしとは何か?をテーマにしたセッションには関心が高いということで、今回はそのテーマを中心にお話することにしました。
先日行った、別のオンライン講義では、”なぜ外資のホテルの方が日本文化を取り入れた建築やサービスに熱心なのか?”という質問を受けたので、この点についても、私見をお話することに。
現状を理解するのに、最もわかりやすい資料がこれ
これは、インバウンド(海外からくる人)とアウトバウンド(日本から海外に行く人)を表したグラフです。ありもののグラフを探したので、2017年までしか数字がありませんが、すでに、3000万人を突破したのはご存知の通り。2012年から伸び始め、2014年に逆転してからの成長はすさまじいものがあります。
そもそも、国をまたぐ旅行は、1970年代まで限られた人の贅沢で、世界的に見ても、”産業”と言えるようになったのは、ここ20年ぐらいのことです。今、新型コロナで実感してしまいますが、そもそも旅行は、平和で健康な状態でこそ楽しめるもの。まさに、国際平和のあかしです。
日本の場合、第二次世界大戦後、旅行どころではなく、ようやく本格的に海外旅行が楽しめるようになってきたのは、1980年代になってから。この時期、日本経済はとっても元気で、貿易黒字がすさまじく、外貨のバランスを取るために(つまり減らすために)日本人が海外でお金を落とすことを推奨していたのです。ハワイ、ヨーロッパ、アジアリゾートに、バブル期のOLたちは、こぞってお出かけしました。勢いあまって、海外不動産を買いまくり、バッシングを受けて時代でもあります。
海外ブームになると、テレビの取材も海外に出かけます。そうすると、海外に行けない人向けに、日本のホテルは”日本で海外”を演出します。イタリアン、フレンチ、それにハワイアン、タイ、もう何でもありました。しかも、それが”高級”と見なされてもいました。ホテルだけでなく、百貨店も、こぞって海外ブランドを導入し、猫も杓子もルイ・ヴィィトン、10代の女の子がアルマーニを着て雑誌に登場するという始末。(工藤静香のこと。はっきり言ってに合ってなかった・・)
私が再生にかかわったウィンザーホテル洞爺は、2002年6月開業でしたが、顧客のほとんどは欧州経験の豊富な日本人富裕層でした。フランスに行かなくても、ミシュラン三ツ星があり、フランスのパン屋やケーキ屋があり、入手が難しいシャンパンがある、という評価だったと思います。一方、フェニックスシーガイアリゾートは、International Destination Resortを掲げ、海外から顧客を呼ぶ戦略を掲げていました。この時、私は初めて、Sense of Placeという概念を学びました。(このあたりは、拙著「SPA IN LIFE」をお読みください)
この時代のマーケティングとしては、ウィンザーホテルが正しく、シーガイアは、早すぎた、ということになります。GMのマイケル・グレニーは、いつも日本のインバウンド数の低迷と国が何も施策を打たないことを嘆いていました。結局、そうはいっても、現実をみるべき、と顧客戦略を修正したのが私の作戦だったわけですが、今こうやってグラフを見ると、彼の言っていたことは、本当に良くわかります。
さて、では、これから日本の観光はどうなるでしょうか?コロナで海外旅行客は激減していますが、これは一時的なもので、長期的に見て、グランドツーリズムの時代は、必ず早期にやってきます。そして、その時代に、日本は、そして東京は何を見せるべきなのでしょう?
学生さんたちには、私の旅の経験をいくつかお話しました。
ワクワクして訪問したモンゴル。一番のご馳走だと連れていかれたのは、イタリア料理店でした。不思議なインテリアでパスタも水っぽい。でも、これがウランバートルで最も上級のもてなしの場だ、と言われました。すでにパオで暮らす遊牧民は、観光遊牧か、ウランバートルに不動産を買えない貧困層になっています。博物館に出かけてみましたが、社会主義になった時代に、多くのものが破壊されて残っていない、との説明を受けました。
ケニアにサファリに行ったときのこと。マサイ族の人に、赤いマントが素敵だと話したところ、もともとマサイがまとっていたのは、動物に見つからない保護色のものだった、あれは自分たちの文化じゃない、と話し始めました。イギリス人がやってきて、召使いとしてマサイの人々を使い始め、見つけやすいように、と赤いタータンチェックの布をまとうことを命令し、それが今に至っているとのことでした。ケニアの紅茶は、とても美味しいので、お土産品として人気があるのですが、これもイギリス文化の名残です。サファリの中は、環境が保護されていますが、ひとたび外に出ると、ゴミの山がすさまじいです。
ハワイやヨーロッパ・北米の先に、その土地独特の文化を求めて訪問しても、期待通りの体験が出来るわけではないんだな、と感じました。
再来訪したフォーシーズンズ東京大手町。ベッドサイドで見つけたもの。
日本人として、色々考えます。