安曇野の碌山美術館に行ってきました。ツタのからまる煉瓦づくりの瀟洒な建物。そう、ここは、あの名作”エースをねらえ!”に登場する場所です。細かな設定は忘れてしまったのですが、主人公の岡ひろみが、ここを訪れ、精神的な強さを得る一助になったシーンとして描かれていたように記憶しています。
ちょっと他の美術館と感じが違うのは、敷地内にこぶりな建物が点在していて、風や空気を取り入れ、ある面そっけなく彫像が置かれていること。名作揃いなのに飾り気なく並べられているのにちょっと驚きました。箱だけは立派で、中に置かれている作品は薄い・・という美術館が増えている中、この質実剛健さに好感が持てます。湿度が低く、青空の広がる秋の一日。この美術館を訪れるにはは絶好の日でした。
荻原碌山という人は、30歳で亡くなるまで、米国やフランスを回り、苦学と苦悶を重ねて、いくつかの名作を残しています。ロスチャイルド家で使用人をしつつ、学校に行くなど、本当にこの頃の人の努力には頭が下がります。フランスでロダンの作品に出会い、画家志望から彫像に進んだことを初めて知りました。
個人の名前のついた美術館の面白さはここにあります。その作家の経歴・作品を作ることになった経緯、書簡など、その人となりを紹介するものが展示してあることが多いので、その一つ一つを丹念に読み進んでいきます。東京の美術館ではまず無理な、”じっくり時間をかけて”ができるのもの嬉しい点です。
30歳で亡くなり、名門の出身でもない、寡作の作家が、なぜ個人名を冠した美術館を残しているのか、ここに来て、ようやく理解できました。その真摯な姿勢や、人とのつながりを大切にする生き方に、共感する人が多かったようです。それほど豊かとは言えない生活の中でも、ロダンにいとまを告げる折、日本の作家の絵画を送り、丁寧で美しいフランス語の手紙を残しています。誠実な人柄の溢れる筆跡でした。ロスチャイルド家には召使に近い立場で勤務し続けたようですが、家族が亡くなった際に、お悔やみの手紙と、その人物の顔をかたどった作品を送っています。
ここに来ると、”清廉”という言葉が頭に浮かびます。その志をついで、運営されていることも素晴らしいと思いました。綺麗に掃き清められた庭、磨かれた古い椅子、澄んだ空気を全身で感じることができます。