コンシェルジュについて書かれた本Le Hallを読みました。(英語ではThe Lobbyの意味だそうです)。ホスピタリティ、ホテルという組織の中で、高いレベルのサービスを提供するとはどういうことか、一つ一つ丁寧に書かれています。
私がスパビジネスに関わるきっかけがウィンザーホテルの再生プロジェクトだったこともあり、セラピストの役割には、コンシェルジュと重なる点が多いと常々感じていました。ホテルスパのセラピストを目指している人、既に勤務している人には、ぜひじっくり読んでいただきたいと思います。
ゲストがホテルに滞在する中、会話の機会が最も多いのが実はセラピストです。ホテルの接客ニーズを考える上で、どの部署の人が会話時間が多いか、という分析をコーネル大が行っています。実は多くのホテルで万遍無く時間が多いのは、ベルスタッフだったりします。ホテルを使い慣れている人は圧倒的にコンシェルジュ、そして、馴染みのスタッフが居れば、レストランやバーと続いていきます。が、長いといっても、10分程度のことです。それに対して、セラピストはカウンセリングだけでも優に10分、施術中の会話、施術後のリラグゼーションなどを含めると、数時間に亘ります。
その間、お体のこと、プライベートなこと、ホテルのこと、お買い物のこと、観光のこと、本当に様々なことを話されますし、質問をされます。この会話の広さと深さが、ホテルスパの特徴であり、ホテルへの印象をも左右する重要な点なのです。
スパのトリートメントは、ボディマッサージ、ボディケア、フェイシャルなどがありますので、アロマセラピスト出身者、エステティックサロン出身者など、様々なバックグラウンドを持つ人が応募してきてくれます。中には、高い志を持ち、高い技術で顧客の期待に応える人もいますが、必ずしもすべての人が、前職での力量を発揮できるわけではありません。うまくフィットできない場合、こういった顧客との会話に価値を感じず、ホテルそのものにも興味を持てない方であることが多いように思います。
ホテルには、ライフスタイルのすべてがあります。季節があり、歳時があり、インテリア、食事、建築、アートまで。まさに五感のすべてが揃った場所です。私自身、ホテルの企画を立てる上で、歴史から文化まで多くのことを勉強してきました。その多くは、スパの中にももちろん活かされています。この五感に影響を与えることが、肉体的にも精神的にも作用することがわかってきている今、セラピーに取り組む上でも、実はとても大切なことなのです。
足元を見れば、ホテルの中にも多くの要素があります。ホテル勤務者たるもの、まずは全てのレストランで食事をすることはマストです。よく、”ホテルは高い”という言い方をする人もいるのですが、でも、その”高い”ところで、最も高額なサービスを提供しているのがスパです。無駄遣いをやめて、1ヶ月に1カ所ずつ、メインダイニングのディナーなら数ヶ月分貯めてでも、必ず行くべきです。このことが、同じ専門職であるシェフたちへの理解にもつながりますし、ゲストから”お奨めのレストラン”を聞かれたときに、自信を持ってお奨めでき、そして料飲のスタッフと仲良くなっていれば、すぐに予約を入れるといったホテルならではのスマートなサービスも提供できます。
一流ホテルのコンシェルジュが、なぜあんなに諸々のことに詳しいのか、その努力の中身も説明されています。この仕事に誇りを持ち、好きでないとできない努力だな、と感じました。仕事に対する姿勢に、背筋がピンと伸びるような一冊です。