10月20日付けの日経新聞夕刊に、脚本家の橋田寿賀子さんのインタビュー記事が掲載されていました。タイトルは”足るを知る おしんの心 自分で自分を不幸にしない”というものです。”上昇志向は人が成長するためにとても大切なものだが、いつまでも高望みをして身の丈を知ろうとせず、社会が悪い、時代が悪いと人のせいにしていると、一生を恨み節で終えることになる”と書いてありました。
小さいながら会社を経営していますので、人の問題は常に最重要事項です。また、雇用機会均等法二期生であり景気がよかった時代のアラフォー女性として、働く女性から、また雇用する側の企業の経営陣から、意見を求められることも多々あります。
相談を受けつつも、また社内のことで悩みを抱えつつも、なかなか答えを出せなかったことの解を見た気がしました。”もっともっと”と望む人が多すぎる気がするのです。
まず、40代に多く見られる問題は、恵まれた時期に仕事を覚え、処遇も仕事内容も、バブル期が基準になったまま変わっていない人。こういう方の場合は、常に条件面が仕事を選ぶ最重要の基準になり、それを下回る条件を提示されたり、処遇が下がったりすると、”侮辱された”と怒りを覚えてしまうようです。かといって、40代、既に組織の責任を担う立場でリーダー的な役割を期待されているにも関わらず、気持ちは”女の子”のまま。仕事で厳しい指導を受けると、上司が自分を嫌っている、自分はいじめにあっている、と捉えてうつ病になってしまう例です。
もっといい職場があるはず、と後先考えず辞めてしまい、転職先を探すと、以前の半分の給与だった、もしくは40代の女性には求職がなかった。と言ってこられる方もおられます。ただ、こういう場合、十中八九、”こんな日本は間違っている!”とまず怒りのお言葉から始まってしまうので、少しでも相談に乗れれば、とランチにつきあったことを即刻後悔することになります。どうしても、と頼まれてヘッドハンターをご紹介したものの、毎回この調子でヘッドハンターにくってかかられて、”申し訳ないけど、お役に立てないと思うので、ああいった方のご紹介はこれから控えてほしい・・”と断られてしまったこともあります。
当社でも、中途社員の採用面接を常に行っていますので、多くの方にお会いします。これまで様々な試みをしてきました。その方のキャリア、やる気、給与希望を伺い、ほぼそのまま採用したことも多くありました。それは、他の社員とは異なる役割を果たしていただき、この業界に先に入った先輩として、良きロールモデルになってくれれば、と期待してのことです。
しかしながら、その多くはなかなかうまくいきません。むしろ、スタートは控え目にして、評価次第で検討してください、といった方の方がはるかに成長が早く、その後のキャリアが開けることが多いのです。時間の経過の中で考えてみると、”学びたい”と入社される方には、こちらもできる限りのサポートをします。素直に受け入れてくださることで、成果も上がりやすく、周囲も納得する形ですくすくと昇進しますので、ストレスもあまりありません。一方で、始めから”完成品・指導者”として入社された方の場合、周囲の期待も始めから高く、ご本人も”わからないから教えて”と若手に聞く・頼ることがなかなかできません。そうこうしているうちに、思うような結果が出せず、評価時に不幸なやりとりが続くことになります。
橋田さんのインタビュー記事に戻ります。”一流を目指す人間は強いストレスに耐え、望まない仕事もときには引き受けなくてはなりません。”とあります。自分はあえて一流の分野は目指さなかった、と謙遜しておられますが、橋田さんのように、自分を知り、着実に努力を重ねることで、結果一流になることができるのだ、と感じます。
ちなみに、当社の中で、退社してもいまだにゲストから常に名前の出るセラピストが二名います。一人は広島・軽井沢の2箇所でマネジャー職を務めた後、針灸の勉強もしたいとの思いで、国家資格を目指して学校に戻りました。(既にシデスコは取得しています)もう一人は、広島のスパで勤務のあと、ご家庭の事情でミラノに戻り、現在はミラノにあるブルガリホテルのスパ(ESPAの運営)でセラピストとして活躍しています。日本人としては極めて稀な例です。この二名はまさに”足るを知る”方々でした。ですので、昇給・昇格時も、ほとんど評価表を見せたことがありません。こちらで昇給を決めて”来月から給与が変わります”とお知らせしました。私自身、彼女たちから学ぶところが多く、いまだに相談したりと連絡を取り合えるのは幸せなことです。
ゲストからは、”どうしていらっしゃるのかしら、また会いたいわ”とのお声を頂戴すると、私も何だか誇らしいような気持ちになります。人柄が態度にも表れ、好ましい印象を多くの人に残しているのだと思います。きっと彼女たちには、これからも素晴らしい人とのつながりが待っているだろう、と確信しています。自分を幸せにするのも不幸にするのも自分次第だ、と実感させてくれた記事でした。