マーケティングの本には必ず出てくるこの言葉、CRM Customer Relationship Marketing 多くの本が出ており、講演などもよく開催されていますし、情報システムを組む際にも、顧客データをどう活用するか、といった事例で出てくる概念です。
顧客を知る、という考え方はビジネスの基本中の基本なので、色々名前を変えて何度も登場します。データベースマーケティング、ダイレクトマーケティング、ワン・ツー・ワン マーケティングなどなど。BCGに在籍していたときから、ずっとこういった”個”のマーケティングに興味があったので、その後の転職の場でも、様々な形でトライしてきました。
ロジックとか理論構築に仕事の場が限定されている人間にとって、生のデータがある場所は宝の山に見えます。例えば、コカ・コーラにいたときは、セブンイレブンのデータを見たくて仕方がありませんでしたし、自分の商品が発売されてしばらくは、都内の自販機を”張って”いました。(かなり怪しいヒトに見えたことでしょう)自販機のそばですぐに飲んでくださる消費者もおられて、一口飲んだ後の表情には、事前リサーチでは得られない多くのヒントが隠されています。
その後、ネットを活用したマーケティングの手法を考えて実験したいと思っていた折、パートナー企業に名乗りをあげてくださったのが、とある都内外資系のホテルでした。”保管”している顧客データの情報の概要を教えていただき、いかに活用されていないか、驚いたものです。私がその後、ウィンザーホテルの再生に興味を持ち、参画したのは、有数の富裕層である顧客層の行動心理を知りたい”!と強く思ったことと無縁ではありません。
ウィンザーでも、顧客データ活用に興味を持ち、大きな投資をしていたものの、どういった解析をしたいのか、方向性がまだ見えていなかったようで、分析はなかなか進んでいませんでした。なので、ホテルに住んでいた利点をフル活用して、深夜・早朝に、POSデータを毎日毎日読み続けました。その中で、徐々に滞在パターンがわかるようになりました。
ただ、これで十分ではありません。POSデータと顧客個人がまだ結びついていないからです。その方の雰囲気、ホテルのサービスに満足されているのかいないのか、リピートしてくださる理由は何なのか、などなど、データからは”何故”を読み取ることはかなり難しいからです。なので今度は、スパのレセプション、ホテルロビーなど、実際にそのゲストと少しでも会話を交わせるところに毎日登場することにしました。社交的でお話好きなゲストが多く、親しくお話させていただいた方々とは、いまだに個人的なお付き合いが続いており、多くのご指導を受けています。
軽井沢プリンスホテルのスパを運営することが決まったとき、優れた顧客管理システムを導入することは、必須のことでした。スパセラピストにとって、PCを操作すること、私が求める分析をすることは、当初かなりの負担だったと思います。店舗によっては、負担だから要らない、紙やエクセルで管理する、と拒否され、妥協したこともありました。
でも、努力を重ねた店舗では、明らかな成果が出てきています。私が目指すスパオペレーションは、スパの顧客にとって、サロンがまるで我が家のように感じられることです。技術も粧材も、全てはこのウェルカムの後についてくるものだと思っています。
ゲストからは、”本当に安心できる。前回の”続き”を受けられるし、自分の体のことを一から説明するのって本当にうんざりするけれど、ここはちゃんと理解していてくれる”というお声を今年になって多く聞くことができました。セラピストの側からも、自分のゲストに次にどんな”NEW"を提供したいか、内容・時間・単価・演出と様々なアイディアや要望が寄せられます。
こちらでは、それが収益的にどうなのか、ブランドの方向として正しいことなのか、といったやや乾いた内容を判断するために、時間をかけて顧客DBの分析結果を眺めます。運営も4年目に入り、顧客DBのリスト数も数万の単位に到達しました。まずは一定の顧客数を集めたい、という活動だった初期の3年に加え、今度は、既存のゲストにどう新しい楽しみを提供するか、変わらぬ安心感を提供できるか、という段階に入ってきます。
私のライフワークである”個”のマーケティングをこのような形で実現できるとは10年間想像もできませんでした。思いもよらぬところで、ベクトルが重なっていくものです。