文芸春秋から出版された「アマン伝説」を読みました。読み応えのある一冊です。サービス本やホテル本は書店に溢れていますが、主観的なサービス論や、ホテルが出したリリースを転載したようなものが多く、パラパラと手には取るものの、あまり購入することはありません。アマゾンでタイトル買いしたので、どうかなあと思っていましたが、充実した内容でした。さすがは文芸春秋!!
アマンリゾーツが、リゾートビジネスを変えたというのは誰もが認めるところです。今のスパビジネスも無縁ではありません。この本には、ホテル、スパ、建築家、そして投資家と様々な分野の人が実名で登場しますが、知人も多く、それぞれの時代をリアルに思い出しました。創造する経緯が詳細に描かれており、感じるところの多い内容です。
思えば、1990年代はリゾートビジネスにとって夢のような時代でした。1ドル80円台で、日本人は大挙して海外に押し寄せましたし、まだまだナイーブな日本の銀行や投資家が、高い値段でリゾートを買い、無尽蔵とも思える投資をした頃。そのリゾートに、お行儀よく訪れる日本人旅行者たち。
この良すぎる条件の中、誕生したリゾートビジネスは、今環境の変化に直面しています。まず、アマンやバンヤンツリー一つとっても、中国との付き合い方はなかなか難しいものがあるようです。中国に数件オープンしていますが、日本人旅行客にとって、その評判は芳しいものではありません。
”とにかくうるさくて汚くて疲れた・・。せっかくの素晴らしい場所なのに、ディナーは台無しだった”という声が後をたちません。バリでアマンキラやアマヌサが”天国のような場所だった”と言われるのとは雲泥の差です。私も、オープンの案内をもらって行く気満々だったのですが、ジェットセッター並みにあちこち出かけている友人たちから”とにかくうるさいよ・・”と言われて、まだ出かけていません。”とにかく人は入っているからビジネスとしては成功してると思うけど、日本人が行く場所じゃないよね”というのが周囲の評価です。
投資環境や世界情勢はもちろん大切な要素ですが、実際にリゾートを支えるのは、”ゲスト”だということに改めて気づかされる本です。
私自身も、アマンキラで一番の楽しみは、ディナーでもなくマッサージでもありませんでした。GMが主催するハイティーです。といっても英国風のものではなく、アジアの素朴な甘いお菓子。ココナッツのお餅やマンゴープリンが、青々とした葉に乗せられて運ばれるプールサイドでのひととき。GMご一家や他の滞在客となんでもないおしゃべりをした時間が、今でも記憶に残っています。毎日顔を合わせていると、ゲスト同士で挨拶するようになります。プールに向かう通路や、ディナーで席が隣になったとき、”今日は何したの?”と話したり。思えば、そういう会話があったのは、アマンだけだったなあ、と思い出しました。
アマン東京で新しいアーバンリゾートの形をどう表現するのか、興味津々です。