温泉の湯気が恋しい季節になってきました。もともと日本人に大人気の温泉ですが、ここに来て、外国人にも大人気だということがわかり、インバウンド向けの温泉ホテルやリゾートの開発が次々に発表されています。
日本の観光を世界レベルにする上でも、そして、地方経済活性化のためにも、この温泉リゾートの開発をどのようにするかが、とても重要です。
週末に箱根に行ってきましたが、昔建築された廃墟に誓いコンクリートの建物を見ると、このブームが日本の里山をまた見苦しいものにしないことを願わずにはいられません。そんな願いとは裏腹に、寄せられる相談の多くは、またまた、1)コンクリートの建物を造ろうとしている 2)いかに安い適当な労働力を確保できるかしか考えていない 3)取りあえずラグジュアリーっぽくして単価を上げたい、というご相談がいまだ主流です。
洞爺で感じたこと、再建を打診され視察した多くの温泉リゾートの共通の問題などについて、気になった点を書いておきます。
温泉リゾートを成功させる上で、重要な点は、2つしかありません。
1つ目は、施設内の移動です。良質な温泉と絶景がある人里離れたところを選び、自然に溶け込む低層階の建物を、自動運転のバギーで繋ぎます。ヴィラタイプの施設は、人気がありますが、これを実際に造ってしまうと、運営コストで立ちいかなくなります。南の島で成立している、ヴィラ+バギーが成立しているのは、人件費が日本の数十分の一だからです。これを日本でやってしまっては、人件費に加えて、人出不足の問題で、まず機能しません。が、昨今話題の自動運転の仕組みを導入すれば、まるで別の世界が広がります。ヴィラを作ることは、開放感につながりますが、ゲストにとっては、食事に行く、スパ等のアクティビティに参加する際に、億劫になるなど、マイナス面もあります。施設内を楽しく自在に移動できれば、設置する付帯設備の構想も大きく変わってきます。そして、バギーの機能によっては、リゾートを造れる場所の選択肢も増えます。日本の温泉に多い山岳地は、傾斜が急な場所も多く、開発時のネックになることもしばしばです。多少の坂なら問題なく動ける仕様であれば、山の中にひっそりと存在する秘湯温泉リゾートも夢ではありません。
2つ目が、社員の生活環境です。リゾート再建や運営に携わる中、運営の安定と質の向上には、そこに勤務する社員の生活の充実が不可欠だと痛感しました。が、経営陣は、この要素をかなり軽く見ます。重鎮によっては、若いときには苦労すべき、と主張する人までいます。でも、個室で育ち、ウォッシュレットがあり、銭湯に行ったことも無いという今の世代に、大部屋や共同トイレや大浴場が受け入れられるでしょうか?修行や成長機会と捉えるどころか、体調不良で辞めてしまいます。
私が勤務したウィンザーホテル洞爺は、ホテルから車で30分ほどの豊浦というところに寮がありました。この寮そのものは、個室+シャワーという恵まれた施設で、家族向けには戸建てが準備されていました。問題は、従業員食堂の営業が何と夕方4時で終わってしまい、夜は食べるものが無いということでした。おまけに、一番近いコンビニは歩いて15分、雪の降る季節に、不慣れな人が歩くと30分かかってクタクタになるという状況でした。あまりにお腹を空かせたスタッフが多かったため、ホテルの従業員食堂に、ホテルが業務用品で取引していたセイコーマートさんに依頼して、簡易なコンビニを開設していただくことにしました。商品だけ納品していただき、販売はホテルスタッフが行いました。日販品も入れていただきました。最低限の機能でしたが、これで多くのスタッフのお腹が満たされました。驚いたのは、この最低限のことをする上でも、”根性論”が根強く、社員を甘やかしていると非難されたことです。しかも、人事部長にです。
今、IT関連会社は、社員の労働時間が長い現実を踏まえて、会社で朝食や夕食まで出し、社内に売店を併設しているところも出てきています。食事の内容にも気を遣い、目にも鮮やかなヘルシーメニューが揃います。そんな時代なのに、心と身体の健康を”売る”リゾートで、社員の健康には全く配慮しないというのは、いかがなものでしょうか?
温泉リゾートでは、いつもスタッフ不足に悩んでいます。人数もさることながら、料理人やスパセラピストなど、技術を持ち、働く場所を選べるようなハイスペックの人は、環境の悪いところにはまず行きません。結果、高い料金を設定しているのに、レベルが安定しない、または、施設は用意したものの、スタッフ不在を理由に、サービスを提供できず鍵をかける施設が出てくる、など”ラグジュアリー”とはほど遠い問題が起きます。
温泉リゾートは、地方自治体にとっても、宝の山です。もし、民間の投資で、これらの施設が準備できない場合、移住促進の予算を活用して、移動してくる従業員のための居住施設を造っても良いと思います。移動や移住になり、そして、地方が持つ自然の財産を発信する人財になります。
リゾート法の後、破たんと再生を経て、今また、温泉という資産を活用して活性化するチャンスが巡ってきています。しかも、今回のチャンスは、世界に市場が広がっています。ハード偏重を見直し、ゲスト動線に最新のテクノロジーを組み合わせ、そして本当の意味で、人を活用する方法を考え、今度こそ日本の潜在力を光に変えてほしいと思います。
デザインやコンセプトで差別化したい、とお考えのオーナーが多いのですが、全体的に水準が上がってきている中、この要素はそれほど差別化の要素にはなりません。注目されても、それは一時的なものであり、持続する強さを持たなければ、大きな投資に見合った成果を挙げ続けるのは難しいのが現実です。それでも、本当に、表面的な相談が多いというこの現実・・。悩みます。