私のBCG時代の上司であり師匠である、内田さんが「右脳思考」を上梓されました。拝読しながら、BCG時代のプロジェクトや内田さんとの会話を思い出しました。
BCGは、分析力やフレームワーク構築を強みとする会社で、現代の会社経営学に大きな影響を与えています。米国式の経営理論においては、いかに、偶然の産物を定型に変えるか、人のリスクを組織力でカバーするか、といった“定型”を重視します。投資家から資金を集めて、大きなスケールで一気に市場シェアを取る、という手法においては、いかに”まぐれ”のリスクを軽減するかが、投資家を説得する手段だからです。
クライアントへの提言を作成する中で、私自身も何度も”属人的なリスクを低減すべき””そのための戦略は・・”というくだりを書きました。実を言うと、この提言を書くことが、私にとっては悩みの種でした。なぜならば、マーケティング戦略のプロジェクトをする上で、ある才能ある人のひらめきは不可欠であることを実感していたからです。ひらめきも属人的、それを育成する上司の采配も属人的、そしてそのぷロジェクトに投資を決める社長の価値観も属人的。そのリスクを経て、画期的な商品は誕生します。
夜中に、この一文を書いたあと、う~んとうなりながらウロウロしつつ、内田さんの部屋に行きます。”気持ち悪いんですが・・”時刻は深夜をまわり、帰り支度をしていた内田さんは、カバンを置いて、数時間私の疑問に向き合ってくれました。BCG在籍中、内田さんのぷロジェクトが多かったのは、そんな面倒な私を引き取ってくれるオフィサーが少なかったからなのだと思います。梶川は、価値創造に興味があるんだよな、と言ってくれて、そういったクライアントのプロジェクトにアサインし続けてくださったのは、本当に有難いことでした。
この本にも登場する企業のプロジェクトは、いくつかのテーマ別に6年間担当しました。とても面白い会社でした。その中で、私なりに、”ひらめき””勘”をどうすれば、会社の力にしていけるのか、模索し続けました。クライアントの会社にどっぷり入っていると、たいてい”変わり者”に出会います。断片的には面白い点があるのですが、話が飛んでしまい、うまく他人に話せない、というタイプです。銀行から来た役員からの評価は最低、でも、創業社長は、”いやあ、あいつの話は面白い!”と意見が割れます。内田さんが私に振ってくれた役割は、”面白い話の真偽を確かめてこい”という内容でした。来る日も来る日も話を聞きにいき、要素ごとにバックアップデータを揃えていきます。その技術の新規性と、投資とリスク、それにその会社で実行できる人材がいるのか、外部から採用できるのか、詰めていき、そして最後に、発案者のところに戻り、やってみたいかどうか、熱意を確認します。地道な作業の繰り返しなのですが、私はそれだけこのクライアントが好きでしたし、散在するアイディアの中に原石があるかどうか確認することは、コンサルタント冥利に尽きると思っていました。
その後、様々な職場や経験を経て、現在に至っているわけですが、私の学びの原点は、まさにこの本に書かれている内容です。
ロジックは必要だけど、ひらめきが無いロジックは何の意味もありません。一方で、単にひらめきがあるだけでは、それはおしゃべりで終わります。やっぱり両輪必要なのです。
スパが面白いと思うのは、セラピストたちは、感受性に優れ、日々多くのひらめきを得ます。これは、スパだけでなく、ホテル全体にとって大きな宝の山です。ただ、残念ながら、それを人にきちんと伝える経験が不足しています。スパで打ち合わせをする際、私は日々多くの質問を投げかけます。何故そう思うのか?去年はどうだったか?他のゲストからも同じ意見があるか?定性的な問答の後は、データを用意するように指示します。私から答えや指示を出すことは、極力控えます。自分で答えを見つけ、実行して、成果が出てこそはじめて成長します。
企業のコンサルやアドバイザーを務めて、逆のタイプの方の研修を頼まれることもあるのですが、理論や過去データを極端に重視する方は、なかなか伸びず、成果を出すことが難しいように思います。結局、ひらめきを得るのは、人や物事に興味があるからです。サービス精神が旺盛で、”もっと何かいいことをしたい”という想いがアイディアに繋がります。それを人に伝えらえるようにする技術を習得することはそれほど難しいものではありません。
その意味で、右脳を刺激するのは、好奇心とか楽しむこととか、人に対する思いやりとか、そういった柔らかい気持ちなのだと思います。
年末年始を終えて、スパの現場では、国内外多くのゲストをお迎えし、様々な気づきがありました。毎日の日報でも、色んな提案を送ってくれています。”もっとこうしたい””こんな風にゲストをお迎えしたい”というポジティブなメッセージを年始から受け取れるのはとても嬉しいことです。1月2月は、面談の機会も多いので、たくさん問答を経て、私たちなりの答えを見つられればと思っています。