Go toが本格的に始まり、高級ホテルの人気が伝えられています。東京オリンピックに向けて、高級外資系やライフスタイル系が続々と開業予定を組んでいましたので、今年はホテルの大大大当たり年です。オープンしたてで、サービスはまだ不慣れな面はあると思うのですが、ピカピカの施設はとっても魅力あります。当面海外旅行には行けそうにもありませんし、お出かけの機会激減で服の需要も無いので、ホテル巡りして過ごそうと思っています。
さて、そんな開業ラッシュの日本(東京)ですが、かつて御三家と呼ばれるホテルがありました。ホテルオークラ、ホテルニューオータニ、帝国ホテルです。結婚式はこのどこかで挙げるのが夢、という女性も多かったですし、政治家も財界も宴会はたいていこのどこかでした。海外要人の宿泊は、オークラが大半でした。オークラとニューオータニは、フィットネスクラブも有名で、入会金や会費の高さに加え、ご紹介が無いと入会できない、という敷居の高さが、格の高さに繋がっていたと思います。
そんな無風状態を破ったのが、外資系ホテルのオープンでした。新宿のパークハイアット、恵比寿のウェスティン、目白のフォーシーズンズ(今は椿山荘)がオープンし、新御三家と呼ばれるようになりました。日本でスパらしきものが登場したのは、このホテルの開業がきっかけです。パークハイアットには、素晴らしいプールや温浴の施設がありますが、そこに、アロママッサージのお部屋が併設されました。フォーシーズンズは、これまた素晴らしいプールに、伊東から温泉水を運んできた露天風呂、そして、ゲランのサロンとフィットネスクラブがオープンしました。ボーナスをはたいて入会し、せっせと通ったものです。
この頃から、スパを作るホテルとそうでないホテルの姿勢が分かれるようになり、近年では、5つ星ホテルのガイドラインに、スパ施設の施設スペックやサービススタンダードが明記されるようになり、年々進化しています。今や、海外では、スパとヘルスツーリズム、メディカルサービスが融合し、リゾートとしての格付けに、エコや健康プログラムが加わろうとしています。というより、それが富裕層のニーズです。
日本のホテルでは、以前は、御三家に入っていなかったパレスホテル東京が、リノベーションで素晴らしい変化を遂げ、トップランナーに躍り出ました。リノベーション時に、エビアンスパを導入しました。ホテルはForbesトラベルガイドで高い評価を得ています。私が大手町で勤務していた頃、静かなテラスで、お堀の白鳥を見ながら友人たちといつまでもおしゃべりしたものです。つまり、とっても空いていて静かな場所でした。そのホテルがこうなる!と思うと、驚きと尊敬の気持ちでいっぱいになります。会食で良くお世話になった和田倉も、とっても立派になってちょっと敷居が高くなりましらけど、それもまた嬉し、です。
日本のホテルは、宴会の収入が主とされ、個人客サービスにはそれほど力を入れる必要が無い、とおっしゃる方もおられます。むしろ、個人向けのサービスは効率が悪く、経営的に間違っている、と言われたこともあります。変わることのない御三家は、その方針なのかもしれません。それはそれで棲み分けになるのかなあ、と思っていました。老舗には老舗のやり方があり、日本流のサービスの良さもありますし。
が、そんな私の考えを一変させる出来事が。
御三家の中で、唯一施設を建て替えて、スパを作ったホテルがあります。老舗ホテルとして有名で、スタッフのレベルの高さでも知られています。私自身、このホテル出身のホテリエから、多くのことを教わりました。
昨年のリニューアル後、あまり良い評判を聞かなかったときも、”規模もあるし、時間がかかるんだろう”ぐらいに思っていました。何より、スパ施設に投資をなさった姿勢が素晴らしいと思い、贔屓心もありました。時間がたてば、サービスも収まるだろうと思い、時間をおいて行ってきました。
そこで体験したこと、目にしたことは、悲しい現実でした。ほぼ評判通り。
スパも・・・正直スパとは呼べない空間&サービスでした。空間もさることながら、事務室にあるようなパーティションやビニールサンダルが置かれているのを見ると、ゲストをもてなす気持ちがあるとは思えませんでした。裏口から案内されたのかと勘違いしたほどです。(コロナの影響があって、動線を変えたのかと思いました)
一方、最近宿泊した某外資系5つ星ホテルは、素晴らしい施設&サービスでした。スパスタッフは、”GMがスパに一番力を入れていて、毎日来られます”と話していました。細部にわたり、GMご自身がお決めになったとのことです。ここ数年、海外から来られたGMや開業担当のディレクターとお仕事する機会が増えましたが、スパサービスを理解しているのは当たり前で、そのサービスをいかにホテル全体に波及させるかを考えているかどうかが、上を目指せるかどうかを分けている印象を受けます。個人差はありますが、それでも、スパを普通に利用し、ご自身でも経験値をお持ちなのが一般的です。
環境やウェルビーイングが、社会の潮流になる中、スパは単なる美容サービスではない時代なのです。その意味で、どんなスパを作るか、どう運営に力を入れ続けるかが、ホテルの進化度を見るポイントになっていると思います。その結果として、客層が良くなり、ファンが増え、そこで集うことがブランドになり、宴会やパーティも増えます。
思い入れもあったので、本当にがっかりしたー、と友人に伝えたところ、鋭い指摘がありました。”わかる。あのホテル、スタッフに情熱とか想いが無いもんね。いずれこうなると思ってた。ある意味、昔の成功体験にあぐらをかいてきた、昭和の日本の象徴のような・・” 絶妙な表現!
ちなみに、海外の老舗ホテル系はどうしているかと言うと、格を保っているところは、絶え間なく進化しています。プラザアテネやムーリスといった格式があるところにも、エレガントなスパ施設があります。あの重厚な建物に、水の配管を持ってくるのは、大変な努力がいると思いますが、それでも作っています。石造りの廊下の先に、白を基調にした明るい空間が広がっているのを見ると、それだけでアップデートされた印象受けます。またこれが、調和しているのが素晴らしい。
それはフランスに限らず、他の国でも。数年前のWorld Luxury SPA Awardが、アイルランドで開催されたので、帰りがけダブリンに寄って、老舗ホテルに宿泊してみました。概観は石造りで重厚、中はモダンなデザインで客室もとっても快適。リノベーションした時に、Elemisのスパを入れたとのことで、コンパクトながらも素敵なスパがありました。そして、客室のアメニティもすべてElemis. 老舗の町一番は、やっぱりこうでなくてはなりません。それが、グローバルトラベラーの期待に応えるということです。
世界中を旅するのが当たり前になっている中、ホテルの格付けは、旅行者にとって親切な基準です。機能の規定の一方で、ローカルな要素が入っていることも、重視されています。その意味で、国際水準のスパがあることは必須であり、かつ何等かの文化的・歴史的要素があることが、より高い評価に繋がります。
インバウンドゲストだけでなく、外資ホテルに慣れた日本人上顧客も、国際水準を求めるのが普通になります。老舗ホテルとは、ただ長く営業していることを意味するのではなく、ゲストの期待に沿って進化し続けるお宿なのだと思います。
私にとっての理想の老舗、それは虎屋さんです。ホテルではないのですが。赤坂の東京虎屋本店は、明治維新の折に、京都から天皇家とともに移ってきた名残。(なので、赤坂御所のそばにあります)伝統的な和菓子を作り続けつつ、モダンな店舗開発や海外進出も積極的になさっています。まさに、伝統と革新。そして、日本の良いもの探しも忘れません。熊本に天の紅茶という茶農園があるのですが、ここの有機栽培の和紅茶を虎屋さんは羊羹に採用しています。地方創生と声高に言われる前から、本物を探し続け、安定的に取引を続けることが、支援に繋がっています。その姿勢は本当に素晴らしい。学ぶ点がたくさんあります。