BCGの先輩である、鈴木貴博さんの新著「日本経済復活の書」が届いたので、一気読みしました。ご本人”自信作”とおっしゃっていた通り、説得力のある力作です。
こういった分野のビジネス書の中には、思い付きや利権絡みで出版されるものもあるのですが、この本は、鈴木さんの長年にわたるコンサルティング活動や、分析力、洞察力に裏付けられたものです。広く多くの方に手にとってもらい、考え、実行できる立場にある人は、実行して欲しいと思います。
おわりにーの章に、政治家や官僚の人が感じるであろう点に”目新しくはない、実際に日本は小規模ではあるがそうなる方向に進んでいる”と捉える人が多いのではないか?と書かれていました。私の霞が関にいる知人たちも、恐らくそう口にすると思います。が、実はこの言葉、BCGでコンサルをしていた時代に、会社の変革を阻害する役員が必ず口にする言葉でした。会社の変革は、リーダーである社長が、リスクを取って変革を決断するところから始まります。場合によっては、ご自身が退陣することもあり得ます。そういう意味で、BCGを雇った時点で、相当に腹をくくっておられ、プロジェクトがスタートした時点で、ある程度の成功は見えています。大企業には、頭のいい人が揃っていて、分析もやりかけのプロジェクトも山のようにあります。そういう意味で、今の日本は、分析大好きな大企業に良く似ています。
もう一つ似ている点は、抵抗や軋轢を恐れるあまりに、ちょろちょろ資金を使ってしまうことです。臨界点に達しない投資は、単なるムダ金です。貧乏人の銭失いともいいます。今の日本のバラマキやお金の使い方は、まさにこの状態です。
この本に書かれていることは、日本で大ぴらには議論されない、”不都合な真実”を多く含んでいます。が、その議論を避けていては、この国は、銭失いを続け、そのうちに国の誇りも失い、沈没していくだけです。東日本大震災の時、絶望の中にあっても、エネルギー問題や街づくりをリセットする好機かも、という期待がありました→多くが無駄遣いに終わりましたコロナで新しい医療体制が産まれるかも→新たな借金を増やすだけに終わりましたと、益々失望が続く状況ですが、今は、このまま絶望を続けるか、起死回生の国造りをするかの岐路に立っていると思います。
さて、私の古巣のBCGですが、天才秀才の集まりで、頭が良すぎてかなり個性的な人も多い集団です。中でも鈴木さんは頭一つ抜け出た人でした。ん~とん~とと悩んでいると、”何悩んでんの~”とやってきてはヒアリングが始まります。ええっとあーで、こーで、で、どうしていいかわからないんです、と言うと、シャカシャカと概念図を書き始めます。で、君がやるべき分析はこうなんじゃない?とアドバイスしてくれるのですが、その明快さは本当に凄い!
で、その鈴木さんと私の師匠が、社長だった堀紘一さんなのですが、鈴木さんの本を読んでいて、堀さんの著書を思い出しました。堀さんの初めての著書のタイトル、「脱皮できない蛇は死ぬ」。まさに今の日本を表現しているような凄いタイトルなのですが、当時はその意味があまり理解できておらず、この本を持っていくのが、本当に恥ずかった・・。その頃の日本は、バブル期の真っ最中で、地価高騰がすさまじく、地上げの弊害が目立つ時代でした。三菱地所がロックフェラーセンターを買ってバッシング受けまくり、巨額の貿易黒字で世界中から非難されていた時代です。浮かれた時代でしたが、堀さんがそのころ主張していたのは、東京は、きちんとした都市開発をすべきで、技術開発をしてビルの高層化を進め、空いた土地の緑地化を進めるべきだ、ということでした。そのころ、出演なさっていたテレビ討論番組でも、繰り返し主張されていました。
私はそのころ、”そんな理想論を言っても出来るはずない”と思っていましたが、今、東京は実際にその形になってきています。東京における大規模開発は、緑地化率が義務付けられていますが、六本木ヒルズ、東京ミッドタウンと相次いで出現したエリアは、まさに高層ビルと緑地のコンビネーションです。東京駅近辺も、本当にスッキリしてきました。
BCGに入ったとき、”金が好きなら投資銀行に行け、考える事が好きならコンサル業界でしばらく修行しろ”と言われたものです。優れたコンサルタントの仕事は、とことん現状分析をし、テクノロジー・民俗学・地政学などを理解した上で、ダイナミクスの原理を導き出し、未来のシナリオを考えることです。私たちは、そういうトレーニングを受けました。トレーニングを受けても、どの程度ダイナミクスを理解し、シナリオを書けるかのレベルは本当にピンキリなのですが、この本は、そんなトップランクのコンサルタントにしか書けない内容なんです。
さて、この本を読みどう動くかですが・・。少しでも実行できる立場にある人に渡すことと、自分に出来る事を進めることかな、と思いました。でもまずは、一人でも多くの人に手に取り、読んで欲しいです。