何度かこのブログでも紹介していますが、私は、ここ数年、早稲田大学の研究会に参加しています。観光が産業になりつつある中で、分析や研究が不足しているのではないか、研究と現場で実際に起きていることをリンクさせられないか、との話から始まった取り組みです。スパやホテルの現場にいると、つい近視眼的になりがちですが、研究者の方々と議論したり、リサーチデータを見ると、俯瞰して見ることが出来るので、とても良い機会に恵まれたと思っています。
近著がこちら
インバウンド・アウトバウンド・ループという言葉を使っているのですが、平たく言えば、観光から製造業に発展させることは出来ないのか?という問いかけです。
インバウンド数3,000万人と、数は大きく伸びましたが、一気に人が溢れる観光公害の問題が指摘されています。一定数は欲しいけれど、数だけでなく質を上げていこうとの目標が加わり、観光庁やいくつかの自治体は富裕層の集客に取り組んでいます。書籍執筆中に、東京都観光財団のアドバイザーも努めたため、ディスカッションの機会が多く、色々考えるきっかけになりました。
富裕層観光の場合、滞在中の体験消費(宿泊・飲食・エンタテインメント・移動)、滞在中の購買(お土産などの買物)の単価が高いことが期待されています。ここでポイントになるのは、決して安売りをしてはいけないということです。観光中に提供するものには、そのすべてに人の手がかかっています。付加価値を認めてもらい、高い価格でも喜んで購入してもらうことが、それを作り提供する人たちの生活向上に繋がります。ホテルはそのショーケースであり、お迎えするスタッフは、日本という国の伝道師なのです。
この書籍には、いくつもの取り組み事例や、すでに成功事例といっても良い成果を挙げている例が紹介されています。どれも、各地域で長年にわたり取り組んだ努力の結果です。パリやフランクフルトの展示会に行くと、日本の包丁や有田焼は大きなブースで紹介されていますし、富山の能作さんの錫は、世界中のグランメゾンで採用されています。が、これは必ずしも観光とセットであったわけではありません。努力して展示会に出続けた取り組みや、そこで出会った素晴らしいシェフの後押しなど、幸運に恵まれた事例が多くありました。
この本で紹介されている事例の中には、産地や工房を実際に見てもらうことが体験価値に繋がり、物の価値向上にも繋がっている地域があります。そういう商品やエリアには、長い歴史やストーリーがあり、産業に携わる人たちは、誇りをもってモノ作りを続けています。面白いと感じた点は、素晴らしい物は、きっかけや歴史無くして生まれることはなく、良いお宝があるところには、素晴らしい体験があるのが必然なんだ、という点です。これが風俗というものです。
身近な例で言えば、東京にも短いながらも歴史があり、江戸の町づくりの話、玉川上水の話、明治神宮の話、皇居の話などストーリー満載です。江戸城があるからこそ生まれた、江戸小紋などのアイテムもあります。伝統芸能を見ることができる場所もあれば、茶室を備えた場所も、全国の工芸作家の作品を買うことが出来る場所もあります。
まさに”あなたのまちを見直そう!”です。