”物事には、すべてに良い面と悪い面がある”という考え方を、藤田田さん(日本マクドナルドの創業者)から教わりました。私が絶好調のときと、絶不調のとき、その両方のタイミングで、同じ言葉をかけられました。物事が変化するとき、ふと田さんの言葉を思い出すのですが、ここ1年、その機会が増えました。
お目にかかる際、いつも私が話すばかりで、あまり田さんのお話を聞くことはありませんでした。なので、なぜ田さんがこういった話をしていたのかは、田さんが亡くなった後、著書を読みつつ、色々振り返ってみて、”ああ、そういう事だったのか”と考えて理解するようになりました。
田さんは、軍国少年で、”お国のために立派に死にたい”と思っていたそうです。それが敗戦で大きく考えが変わり、米軍との物資取引で事業を立ち上げ、その後の基礎をつくることになります。本では、敗戦時に、”万歳!”と叫んだ、とされていますが、実際にはそこまで単純な気持ちではなかったような気がします。が、とにかく、戦後の混乱をチャンスだと捉えて、英語をフルに使いながら前に進んで、様々な事業を経た後、日本マクドナルドの創業に繋げていきます。
奇想天外と評する人もいますが、極めて現実的で慎重で、そして前向きな方でした。だからこそ、ソフトバンクの孫さんはじめ、その後に続くベンチャー経営者たちのカリスマであり続けたのだと思います。
コロナ禍の中、日本マクドナルドの好業績が伝えられていますが、その素地となる部分は、すでに田さんの時代にありました。プレミアム感(楽しさ)を合理的なローコストで、というのが田さんの考え方で、その追及は本当に緻密でした。高い価格にも良い面と悪い面があり、安い価格にも良い面と悪い面がある、と考えておられ、その両面に対応するには、オペレーションを強くするしかないんだ、と口にされていました。
私との雑談の中、made for youのアイディアを話されたことがあります。当時、私はネット系の技術やコンテンツに投資をする会社にいて、世界中からビジネスプランが持ち込まれていました。技術シードのデータも、かなり先端のだったと思います。これからどうなるの?なんか面白い話ある?と聞かれて、3G, 4G, 5Gの話をしました。どこまでいくか、いつ実現するかわからないんですけどね、とやや冷めたトーンでお話したのですが、”いやあ、それは面白い!”とおっしゃって、今のスマホモデルや、ウーバーイーツのアイディアを熱く語られました。
当時、宅配は、蕎麦屋の出前やピザぐらいしかなくて、そのお店が届けるのが当たり前でした。私は瞬時には内容が理解できずに、”えっお店のスタッフじゃなくて、バイクに乗れる人がハンバーガーを届けるんですか?ありえないですよ”と答えたところ、”そうかなあ、貴子さん、かたいなあ”と大笑いされました。でもですね、本当にそれをしたいなら、今のメニューも厨房も変えなきゃダメじゃないですか、結構投資かかりますよね、と言い返したところ、そこは真顔で返されました。(一応褒められた)あと、マクドナルドの売りである”スマイル0円”の価値は訴求できないですよね、との話もしました。
ウィルスで世の中がこんな事になるなんて、さすがの田さんも想像しておられなかったと思うのですが、足腰を強くしていての今!なので、蓄積が成果を上げたのではないかと思います。
すべてに良い面と悪い面がある、という話をされたとき、私は絶不調で、明日をどう生きよう?と思うくらいの絶望の中にありました。もう、何にもする気力が無い、とグチグチ話していたら、”そうかな、僕はね、この事業はあなたに向かないと思っていたんだよ。いい機会じゃないか”とばっさり。
その後、荷物をまとめて北海道の洞爺に行き、そこでスパに取り組むことになります。
今回のコロナ禍もまた、良い面と悪い面があると思いたい。悪い面を乗り越えられるように、足腰強く、新たな春を迎えたいです。