スパでのトリートメントを受けたことのある方なら、指圧やマッサージを受けた時、エステティックルームでフェイシャルエステを受けたときとの違いを実感されると思います。
私自身は、1980年代後半からエステやマッサージに行き始めましたが、カーテンで仕切られた設備のところがほとんどで、窓が無いのが普通でした。その後、円高・バブル期の波に押されて、香港やハワイに行き始め、ハイドロ+個室+アフターティーがセットになっているスパでの体験は、マウイ島のワイレアが初めてだったのではないかと思います。この時の体験は衝撃でした。同じようにマッサージを受けているはずなのに、疲労の取れ方も、頭のスッキリ感もまるで違う。その体験をきっかけに、海外のホテルスパに通うようになりました。
ちなみに、久しぶりに検索してみたら、今はウォルドルフ・アストリアの運営になっているようです。大きなスパだったなあ、と思っていたのですが、トリートメントルームは40室あると書かれていました。当時は個人オーナー系のところで、ゴルフ場も含め、素晴らしいサービスレベルでした。
様々な場所でトリートメントを受けるたびに、”何が違うんだろう?”と考えるようになりました。空間が持つ要素はもちろん大きいのですが、空間を作る際に、その意図が明確なスパには、ある種の一貫性があることに気づきました。空間と設えとトリートメントメニュー、そこで使用される化粧品、そしてそれを理解して施術をしてくれる笑顔のセラピスト。空間だけであれば、その施設にかかわった建築家に依頼すれば、似たようなものは出来ます。都市部でもリゾート地でも、一気に似たような施設が増えました。しかしながら、表面だけ真似をしても、そこに一貫性はありません。実際にトリートメントを受けてみると、あまり印象には残らず、満足感も得られません。何より、セラピストの手から伝わるエネルギーを感じられず、質問してみても自信なさげだったので、あまり会話もしなくなりました。
お茶のお稽古をするようになり、スパの楽しさを知った頃の記憶がよみがえってきました。
仕事をする中で、何とか時間を捻出してお稽古に通っているので、前後はバタバタしていることもあります。そんな中であっても、道具を準備し、釜に向かい、湯を注ぎ、茶を点てると、不思議に気持ちが落ち着きます。この感覚は、同じお茶といってもペットボトルや食後の煎茶、お店で抹茶を飲んでも得られる感覚ではありません。
茶会や茶事はもっとです。季節を感じる空間が設えられ、心入れのある道具、料理、菓子、茶、それに会話が続き、終わる頃にはひたひたと心が満たされる感覚があります。稽古を開始してから、ずっと客として伺うだけなのですが、回を重ねるたびに、こういうもたなしを提供できるスパを作りたい、という想いは募る一方です。
これが、”五感を刺激する”という事だと思うからです。かつ、ゲストの五感を刺激するには、熟慮された趣向が無くては成立しません。
ハワイやタイのスパで感動の記憶が残ったのは、その土地の心地よさや恵みを感じて欲しいという、シンプルな考えが明確だったからだと思うのです。そして、それは、初代オーナーの時代の方が滞在を楽しめます。
スパが好きだからこそ、伝えるべきものを形にしていきたい、そう思っています。