さて、ここで、バームについて説明しておきたいと思います。
スパのトリートメントで使用するものは、主にキャリアオイルと精油です。それにクリーム、ローション、スクラブ。スパコスメ、ナチュラルコスメ、オーガニックコスメと様々なものが出回るようになり、選択肢は豊富になりました。
精油のブレンドやメーカーにこだわることが多いのですが、私自身は、もっと基材に着目しても良いのにな、と感じることが多くなりました。
精油は、その分子のサイズゆえに、すぐに血管に入り、体中をめぐります。だからこそ、質には最大限の注意が必要です。合成品の混ぜ物などはもってのほかで、有機もしくは、認証はなくとも無農薬栽培が望ましく、残留農薬や成分の検査証があるのは必須だと思います。
そして、表皮を守る上で、キャリアオイルもとても大切です。どんなに有名なブランドでも、オイル自体が古くなり酸化していては意味がありません。塗布することで、却って皮膚トラブルの原因になってしまいます。その意味で、酸化しにくく安定性の良いオイルを、きちんと管理して使うことが大切です。
一方で、クリームですが、なめらかで使いやすいクリームは、手軽な保湿剤としてとても便利です。ALL THAT SPAでもボディ、フェイシャルともにクリーム商品があります。クリームの場合、主な材料は水と油です。そうすると、どんな商品でも必ず乳化剤が必要になります。乳化剤にもまた多種多様なものがあり、自然由来の成分を多く含み、刺激が無いものがほとんどです。乳化剤が入っているからと言って、害になるものは、ほとんどありません。むしろ、乳化剤を避け、水と油メインで作っているクリームが、分離や酸化を起こし、却ってトラブルのもとになる場合もあります。このあたりは、成分と加工技術、保管状態など複数の要素が影響してきますので、一概に良い・悪いとは言えません。ただ、一つだけ言えるのは、水を含む以上、乳化剤と保存料など、様々な成分を入れないと販売用の化粧品としては成立しない、という事です。水は必ず腐敗するからです。
という具合に、オイルやクリームの性質を理解してくると、酸化しにくい安定性を持っていて、水を含んでいないものはないだろうか?と考えるようになります。
私にとっては、その答えがバームでした。
バームの場合、比較的重めのオイル、ミツロウ、キャンデリラワックスが基本のレシピです。ミツロウは、もともと蜜を守るための壁なので、安定性と保湿性は他に類を見ない素材です。こちらは動物性。
キャンデリラワックスは植物性。乾燥している地域の植物は、保水力や保湿力が高いので、これもその一種なのでしょう。ジャンルは違いますが、オマーンで見たフランキンセンスを思い出しました。ちなみに、キャンデリラは、メキシコ地方に自生しているそうです。
これらに、いくつかのオイルを加え、固さや融点を調整していくのですが、このあたりはまさに職人技です。材料は同じであっても、仕上がりが全く違い、工場によって別物が上がってきます。これには数年間本当に驚きました。この過程で、植物原材料で根気よく仕上げてくれるところと、比較的早く諦めて、固い→乳化剤を加える加工をする工場に分かれていくわけです。化粧品製造は食品製造と本当に似ています。
今回は、この地道な作業に取り組んでくれる工場との出会いがあり、天然素材だけで滑らかなテクスチャーになるバームが仕上がりました。これは、とても幸運なことだったと思います。ちなみに、自分で試作したときは、何度やってもコチコチかべたべたにしかなりませんでした・・。(しばらく湯煎したくありません)
滑らかになれば、水分、増粘剤、乳化剤、保存料を入れる必要が無くなり、かつ、この組成ですと安定性が高く酸化しにくいので、保存にも便利です。かつ、揮発時も安定性が高いため、精油の賦香率を下げても、ずっと香りが長持ちします。
精油にもプラス面とマイナス面があります。常時使うもの、幅広い世代で使用する場合、低濃度の方が良いのです。(もちろん、何等かの症状の解消に使用する場合は別です)
無香料のものからスタートし、賦香率が異なるものを、何度かスパの現場で試し、セラピストの支持を得られたサンプルを最終スペックにしました。専門的な知識があり、こういうテストが出来るスタッフが居てくれるおかげで、良質なオリジナル品が出来ます。”今回のサンプルは良かったです!”のメールを受け取り、ああ、出来た!と本当にほっとしました。