入院や手術をした方であれば、皆さん同じような体験をなさっていると思うのですが、私も人生初骨折で生活が一変しました。
気づいた良い点と悪い点がそれぞれ。
まず、良い点としては、公共交通機関の方々、それにタクシーの運転手さんたちが本当に親切!富山から東京に戻る際、松葉杖しか無い状態だったのですが、事前に連絡すると車椅子を用意してサポートしてくださいます。乗り込む際は富山駅で、そして富山駅から東京駅に、乗車情報を連絡してくださるので、松葉杖で何とか社内を移動すると、車椅子で構内を移動できます。これは本当に有難かったです。次はタクシー。乗りやすさと車椅子を考えて、ジャパンタクシーに乗るようにしているのですが、乗り降り、車椅子の積み下ろしまで、本当に親切で丁寧。そういう動線や設計、トレーニングまで考えてられての事だと思いますが、それにしても本当に素晴らしい!
一方で、悪い点。それは町。まずは歩道。一見スロープになっているように見えても、車道と歩道の間の段差が結構あり、その段差故に、車椅子を自力で上げていくのは不可能です。誰かに押してもらい(それもかなり力がいる)勢いを付けないと超えられない段差。車椅子をダスキンでレンタルした後、近所ならこれで行けるね、通院も一人でOKかも、などと思っていましたが、とんでもない!通院中に再び事故に遭いそうです。宅急便などを運ぶ際には、役に立ちそうなスロープなのですが、体力が無い、スピードを出せない人が使うには、なかなかにハードルが高いです。
自宅療養をする中、ギブスが取れると入浴可になるのですが、お風呂の形状によっては、これもなかなか難しいんだろうな、と感じます。段差があったり、床材が滑るお風呂の場合、シャワー用の椅子を勧められます。我が家の場合、たまたま去年お風呂をリフォームして、こんな感じになりました。
リフォーム前は、ベンチの場所が棚と水栓になっていて、これはこれで便利だったのですが、最近のモデルは、ベンチタイプが主流と言われたので、これにしました。正直、あまり深く考えていなかったのですが、これはとっても助かってます。ベンチに座りつつ、身体を移動させればそのまま浴槽に入れます。(片足は使えるので)おおっこの動線、良く出来てる!と感動ものでした。あと、ドア部分にも段差が無く、水を防ぐ仕切りがゴムなんです。これもとても良く出来てます。
加えて、床が本当に滑りにくい。
私はもともと、お風呂の床が滑るのが苦手で、バス回りの商品を作る際も、”床が滑らない事”をとても重視します。それはやっぱり、自分自身が危ない目にあったことがあるからなんです。
高級ホテルは、高級素材に凝ったデザインを好む場合があり、歴史あるホテルの浴室はほとんどが大理石です。日本でも、バブル期に作られたホテルの多くは、”バスルームは最高級の大理石”が売りでした。欧米仕様がアピールポイントなので、浴槽のへりがとっても高い。これで何度危ない目に遭ったことか・・。滑る、スイッチ遠い、高い、寒い、と旧式のホテルの水回りには良い思い出がありません。あと、コワかったのが、大江戸温泉の床。何を勘違いしたか、お風呂の床材が”木”江戸情緒を出したかったのか、あっちもこっちも滑る木。インバウンド向けの施設になったので、その後行くことはありませんでしたが、あのツルツル床の印象は強烈でした。
と言った経験もあり、今回のお風呂、床材は”一番滑りにくく、乾きやすい”を条件に選びました。これはもう大正解。
メーカーは、ユニバーサルデザインやバリアフリーに力を入れているそうで、素材や什器も、”いかにも”ではなく、さりげないデザインで機能充実、といったものが増えているようです。
本当は、もっと力を入れて欲しい、病院や公の部分が遅れているのが問題なのですが、民ではどんどん進んでいる対応。何とか早急に改善して欲しいです。こういう時に、いつも思い出すのは、20年以上前に女医さんたちと視察に行ったメルボルンのこと。在宅介護をしているお宅に伺い、実際の状況を見せていただいたのですが、とても良く考えられていました。ご自宅は、段差が無いように要所要所にスロープや手すりが付けられています。これだけではなく、通路の確保、家具の配置、スイッチ位置などを、設計士と何度も話し合って改善を繰り返すとのお話がありました。ちなみにこれらのリフォームは、ほとんど公的補助でカバーできるそうです。私がお邪魔したお宅は、ご夫婦で暮らしておられ、物が少なくすっきりしていたのですが、相当物を整理して、数年かけて住みやすくしたとのお話を伺いました。お茶を淹れてくださったのは、車椅子生活のご主人の方だったのですが、お茶、クッキー、カップ類は、手に取りやすいところに常備してあるんだそうです。オーストラリアは、イギリスの生活習慣が残っているので、午前と午後のティータイムをとても大切にしています。カップは素敵なデザインでしたが、割れない素材のマグでした。街中も、車椅子の方でも散歩が出来るよう、スロープの段差が無いように、絶えず修繕しているとのお話でした。
今は、骨折で一時的に歩けない状態ですけど、いずれ皆年を取る。誰かに優しい社会は私にも優しい社会なんです。社会のシステムを見直すことはもちろんですが、素材やデザインに知恵を絞ることで、まさにバリアを感じさせないライフスタイルを築くことが大切なんじゃないか、と思います。そういう意味で、デザイナーの役割ってとっても大切。加えて譲り合いとか助け合いとか、ココロのバリアフリーも。