昨日、早稲田大学にて、「インバウンド・ルネッサンス」の出版記念講演会を開催しました。
リアルとオンラインでの開催でしたが、当日あいにくの大雨にも拘わらず、足を運んでくださった方が多く、仲間が広がる期待感を持てる会でした。ご参加の皆様、事務局の皆様、有難うございます。
講演会の後、主宰の池上さんの研究室に集まり、今後の活動についてメンバーで相談しました。講演会の際、質疑応答で、淡路島の地域交通についてのご質問があったことをきっかけに、地域交通の現状や補助金のプログラムについて、ディスカッションしました。参加メンバーは本当に多様で、いくつかの地域でプログラムの実走をしている人、観光庁の仕事をしている人、大学で実証実験の結果分析をしている人、このメンバーの中で、多くの課題提起や解決についての案が出せる知見が揃っています。
刺激を受けたところで、地域交通について考えてみました。
東京都心で暮らしていると、張り巡らされた地下鉄網や地上鉄道網、それに道路で少し待っていればやってくるタクシーと、足に困ることはほとんどありません。しかしながら、同じ東京でも、少し都心を離れると、道路で立っていればタクシーが来る、という幻はありません(笑)いつでも自由に動けるという利便性が確保されているのは、都心の限られた場所でしかありません。
タクシー会社は、日本全国にありますが、その質にはかなりのバラつきがあります。
私が最初にホテルの仕事をした北海道洞爺。千歳空港から約3時間かかる場所に、富裕層をお迎えるするということで、送迎は大きな課題でした。発売したばかりのBMW7シリーズ、ポルシェのカイエンをお借りする契約をしましたが、自社スタッフだけでは、とても手が回りません。そこで、札幌のタクシー会社を訪問して、送迎の契約が出来ないか、相談に行きましたが、相当にハードルが高い印象を持ちました。車の状態、ドライバーの身だしなみのどれを取ってみても、ゲストの満足には繋がらないと感じたからです。結局この段階では断念しましたが、その数年後(私が退職した後)送迎プログラムが出来ていたので、粘り強くサービスを磨いたのだと思います。
その次は、宮崎のシーガイア。ウィンザーほど不便な場所ではないのですが、宮崎空港からシーガイアのメイン棟であるシェラトングランデまでは、タクシーで片道5,000円かかります。ゴルファー数名での利用では許容範囲でも、女性1~2名にとっては、ハードルが高い金額です。バスも走らせていましたが、便数が少ないこともあり、走らせる割には利用者が少なく、かといって無くすとJTBに怒られるから止めたくない、との営業の意見もあり、ずっと頭痛の種でした。色々シミュレーションしてみましたが、どうにも効率が悪い。そして、バスが大型しかなく、燃費効率も悪い。地方が抱える二次交通の問題の一端を体感することとなりました。
では、典型的な観光地ではどうか?と京都に行ってみると、台数はあってもサービスがとても悪い。インバウンド客が増えた時期に、ほぼ毎週行っており、海外から来た女性客が、大量のスーツケースを自分でタクシーに積む風景を何度も見ました。タクシーがセダンタイプしか無かったことと、ドライバーが高齢者でホスピタリティマインドが無いので、荷物を積むというドライバーの基本的なサービスを無視するという状態でした。京都駅のタクシー乗り場では当たり前の風景でした。北海道でも宮崎でも、気持ち良く荷物の世話をしてくださっていたので、京都でのこの風景には衝撃を受けました。これが国際都市・・。多くのホテルは、MKかヤサカと契約していますが、それでもバラつきがあります。タクシーについては、なぜか大阪の方がレベルが高い不思議。
愛媛で青凪を立ち上げたときも、松山駅や空港からの足については、課題になりました。運転が荒くて、車が汚い・・。道後温泉を抱える観光都市のはずですが、タクシードライバーにその意識はありません。結局、”中でも良い方”という会社と契約をするしかないね、との結論になりました。定額にし、一部の料金は青凪側で負担しています。この方法は、高級温泉旅館やゴルフ場などで導入されています。
では、海外はどうかと言えば・・。
始めて香港に行ったとき、ホテルに予約したところ、limoをどうしますか?との連絡がありました。それではじめてlimo=リムジンであること知りました。思い切って頼むことにしたところ、空港の出口に、ピシッとしたホテルの制服を着たスタッフがプレートを持って立っていて、車まで案内してくれます。もちろん荷物は全部運んでくれます。湿度の高い香港の空港ですが、車に乗るとエアコンが効いていて、おしぼりとミネラルウォーターが用意されています。もうこの瞬間からお姫様気分!香港のタクシーがすべて綺麗なわけではなく、普通に街を走っているタクシーは結構ワイルドです。でも、選択肢がある、という点はとても重要だと感じました。落差が激しい点は、NYが凄い。普通のタクシーは怖い(事務所やホテルでも、乗っちゃダメと言われる)、でもホテル送迎に使うタクシーは、綺麗さも安心感レベルも高い。(NYはその分とてもお高い)
東京は、成田が遠いので、香港のようには出来ないと思っていましたが、羽田が出来てちょっと期待が膨らみました。ラグジュアリー系エアラインである、エミレーツ航空やカタール航空が、ビジネスクラス以上利用時の到着地からの無料送迎を始めたとき、試しに使ってみました。ドバイ、パリ、ロンドン、ダブリン、ミラノとあちこち使っても、大体サービスレベルは同じです。お迎えプレート+車が来る+ベンツかBMW。パーキングまで行く必要はありますが、そう遠くはありません。が、羽田着のとき、期待していたら、お迎えはあったものの、駐車場まで歩く必要があり、車はMKさんでした。航空会社のホームページでも、”東京では同レベルのサービスは提供しておりません”と書かれています。(恥ずかしい)これって何故なんだろう?羽田の国際線が拡充されれば改善されるのかなあ、期待と不安の両方があります。
で、地方のタクシーに戻ります。
地方では、頻繁に”実証実験”をやっています。大抵は、決まったエリアにバスを走らせるというもの。私が知る限り、もう何十年も同じような実験をやっていて、都度何千万円かをかけて、期間が終われば無くなります。全国あちこちでずっと。どう考えても、経済性が合わないので、良い結果が出るはずもありません。
バス・・無理なんじゃないでしょうか。人口が少ないところでは。誰だってDoor to Doorがいいし、荷物が多ければ持って欲しい。それに時間の都合もまちまちです。であれば、その予算をすべてタクシー強化に振り向けてはどうなんでしょう?
東京でタクシーを使っていて感じるのは、結構会社による差があることなのです。(前はあまり感じませんでした)日本交通は、車体が新しく、運転手さんが若くて感じがいい。ナビの使い方にも慣れていて、道の確認も適切です。明らかに社員教育がきちんとしている印象です。一方で、他社さんの場合、他の仕事を辞めて、消去法でタクシー運転手になったという方がかなりの比率おられます。こういう場合、まず、道を知らないからずっとナビをしないといけない、ナビをしてあげているのに、なぜか向こうの人生相談が始まる。”俺の人生はこんなはずじゃなかった・・”というパターンです。いや、私はお客であってホステスじゃないんだよね。かつ、本当は仕事したいのに、ずっと道案内じゃあ、タクシーに乗った甲斐ないじゃない、金返せ~!と叫びたい気持ちをぐっとこらえて目的地まで耐えます。(私も命が惜しいので)日本交通の採用方針、処遇、教育方法、とっても興味あります。
補助金があるなら、地方のタクシー会社の運転手さんの処遇改善に使えないのでしょうか?レベル設定をして、それを達成する条件で、車体やシステムへの投資や、給与保証など。自動運転云々の話もありますが、まだまだ時間がかかる中、観光にしても、地元の人の移動についても、やっぱり”個”で移動できる手段が、地方には必要だと感じます。
さて、何故に私がこんなにタクシー推しなのか?それは、子供の頃から日常的な足だったからなのです。実は我が家は、両親が運転免許を持っておらず、移動する際には、地元のタクシー会社さんにお世話になっていました。そういう意味で、タクシーを利用することに対して、心理的なハードルはかなり低いと思います。当時の宮崎交通さんは、地元でも優良企業だったので、社員さんはしっかりしておられ、車体も身だしなみも清潔感や安心感があるものでした。残念なことに、その後、会社が更生法の適用を受け、タクシーの雰囲気も随分変わってしまいましたけど。だからこそ、会社の安定感や処遇が、質に直結することを実感しているのです。
この間、運転手さんに聞いてみたところ、売上の8割は、すでにGo taxi経由なのだそうです。お子さんの送迎や、買い物に普通に使う方が増えてます、というお話でした。ご近所のスーパーの駐車場でも、お見かけしました。(日本交通でした)
地元民だけでは成り立たない経済性でも、インバウンド顧客を含めば、成り立つ部分が出てくると思います。私たちの研究会のテーマは、そういう事例を研究して、少しでも前に進むこと。モノ作りでもサービスでも、顧客ベースが変われば、おのずと経済性は変わります。経済性が変わることで、インバウンドは地域経済に寄与できることがあるはずなのです。