昨日読んだ「ユニクロ」。山口発祥の会社だということは知っていましたが、その場所が宇部だということを初めて認識し、腑に落ちました。
昨年、石上純也が設計を手掛け、平田シェフがいるMaison Owlを訪問するために、初めて宇部に行きました。宇部興産のために生まれ、宇部興産のために作られたような町でした。滞在先のANAクラウンプラザホテルも、宇部興産のビルに入っています。彫像も博物館もすべて宇部興産絡み。移動する際に乗ったタクシーの運転手さんに宇部興産のことを聞くと、歴史的経緯を含め、皆さんとても詳しく説明してくれました。大変な隆盛のあと、今、町は下り坂です。今回の本にも、この町の栄枯盛衰が、少なからず柳井さんの心情には大きく影響していると記されていました。もしかすると、過去に読んだことのあるユニクロ本にも書かれていたかもしれないのですが、あまり記憶に残っていません。宇部を実際に訪れる前と後では、私自身の理解度が違っているのだと思います。
経済紙のインタビュー記事で、日本人には危機感が足りない、とよく発言されているのは、柳井さん自身が、町の劇的な衰退を目の当たりにし、その場所だけでは生きていけないと切実に感じたことが大きかったんだな、と今になってみるとわかります。ユニクロは、成長する中で、多くの人を採用し、そして多くの人が去っていった会社です。会社によっては、アルムナイのネットワークがある場合もありますが、この会社の場合、あまりそういった話を聞きません。どちらかと言うと、振り返りたくない過去になっている人が多いような印象を受けます。それだけ厳しい環境だったのでしょう。そのため、この会社の厳しさはどこから来るのか、とても興味がありました。彼の原点は、”危機感”だったんですね。
この本にも登場する、日本マクドナルドの創業者、藤田田さん。ソフトバンクの社外取締役を交代する際に面談し、人材教育について話し、マクドナルド大学がユニクロ大学の礎になったと書かれていました。
その藤田田さんの原点は、第二次世界大戦の敗戦です。軍国少年だった藤田さんは、ある時、日本政府のやり方が間違っていると感じるようになります。この戦争は負けると思ったその日から英語を勉強し、終戦直後から基地に出入りするようになり、通訳や輸入でひと財産作ります。その後、次々に米国のブランドを日本に導入していき、事業を拡大します。その一つがマクドナルドでした。多くの海外ブランド日本法人が、一営業所、出張所と化していく中、この会社だけはむしろ日本側が優れたオペレーションを確立し、指導的立場にあったことを、今知る人は少数派になってしまいました。幸運にも、田さんと話す機会を何度もいただき、彼がどんな思いで事業を展開してきたか、直接伺いました。彼の原点は、”米国人よりうまくやる”でした。
そして、この先、日本がどういった方向に行くのかにも、とても強い興味を持っておられました。自分の世代は、食べていくことと国を存続させることが大切だったけど、これからの世代の人は、日本が何かでリードすることを考えなくてはいけない、とおっしゃり、そういう起業家をいつも応援しておられました。その中には、今の経済界で大きな影響力を持つ方もおられます。
私がお会いしたのは30代半ばのことでしたが、ちょうど色々な岐路に立っていたこともあり、親身になってアドバイスをくださったり、仕事を紹介しようとしてくださったり、今でも感謝の念は消えません。正直、あまり私に事業の才があるとは思っておられず、”どうすればこれから貴子さんが幸せに生きていけるかな”といつもおっしゃってくださっていました。その時に口にされたのが、自分の原点と続けていけることを探すことだ、ということでした。若い頃は色々やっていい、でも、40前には自分の道を決めて、あとは続けなさい、と言われました。
それまでの自分のキャリアとは、全く異なる領域を選び、デスティネーション型のホテルとスパが自分が長く取り組める領域になると思う、一度見に来て欲しい、とお電話で伝えた時、”ああ、それは良かったね、あなたに向いているかもしれないね。”と言ってくださり、それが最後の会話になりました。どうしてこの領域を選んだかと言えば、幼少期に見た、”ウェルネスのまち、都城”にあることは、拙著でも書いた通りです。
起業してすでに18年目を迎えていますが、続けることの難しさと面白さを交互に実感しています。続けることで、一緒に取り組む人の輪が広がったり、思わぬ知恵が生まれたりします。ある時期から、日本の精油をはじめとした、足元の恵みを取り入れていくことを積み重ねることに決めました。素晴らしい発見があると、田さんが今でもお元気だったらな、と思うことがあります。
私の原点は、うずぐずと体調が悪かった幼少期と、薬よりも食べ物や運動や自然のもので回復していった体験にある、と改めて感じた、読後の思いです。